P4P(パウンド フォーパウンド。体重差=階級の違いに関係なく、体格が皆同じだったと仮定したときに誰が一番強いかを想定するランキング)の最強ボクサーと目されてきたカネロ(メキシコの言葉=スペイン語でシナモンの意味。アルバレスの髪の色を指している)こと、サウル・アルバレスがメイウェザー戦以来(2013年9月)の敗戦を喫した。
(これで通算成績は、61戦57勝39KO 2敗2分)
相手はドミトリー・ビボル。WBA世界ライト・ヘビー級スーパー王者だ。

Instagram

www.instagram.com

スーパー・ミドル級を制覇したカネロ

カネロ・アルバレスは2020年代のボクシング界最大のスーパースターだ。現代のボクシングシーンは彼を中心に回ってきたと言って差し支えない。
スーパー・ウェルター級(154ポンド≒69.85キロ以下)でデビューし、ミドル級(160ポンド≒72.57kg以下)、スーパー・ミドル級(168ポンド≒76.20kg以下)の三階級を制覇したうえに、スーパー・ミドルでは4団体(WBA WBC WBO IBF)統一の偉業を成し遂げた。
さらにライト・ヘビー(175ポンド≒79.38キロ)では名王者セルゲイ・コバレフをKOで破りWBO世界L・ヘビー級タイトルを奪取して4階級制覇王者となっている(防衛戦はせず、すぐにタイトル返還)。

前述のように2013年にフロイド・メイウェザーJr.に判定での黒星を喫した以外は、無敵の強さをみせてボクシング界に君臨してきたのがカネロなのである。
彼は上背こそないが(公称173センチ)、雄大な体格に支えられたパワーと、階級を変えても変わらぬスピード、そして優れたボクシングテクニックでライバルたちを薙ぎ倒してきた。
端正なマスクもさることながら、誰を相手にしても積極的に攻める、そのケレン味のないファイトスタイルが多くのファンに受けて世界的な人気を勝ち得てきたのである。
彼をして、ドーピング疑惑や政治力の乱用によって作られた人気者という陰口をきくむきもあるが、それでも常にP4Pの常連に選ばれるだけの実績を残してきているのだ。

カネロの進撃を止めたビボル

そんな最強ボクサー カネロ・アルバレスがスーパー・ミドル級の階級制覇(主要4団体の統一)を成し遂げたあとにターゲットとしたのが、L・ヘビー級の階級制覇だった。
その第一歩の対戦相手に選ばれたのが、WBOのスーパー王者ドミトリー・ビボルだったわけだが、ビボルはこれまで19戦19勝無敗。KO率はそれほど高くないものの(11KO→57.9%)、そのテクニックの確かさには定評があり、決して侮れる相手ではなかった。

しかもビボルは身長183センチ、カネロよりだいぶ背が高く、体格をみてもカネロに引けをとらない筋肉質なカラダをしていた。

下馬評ではカネロにはかなうまいという評価だったようだが、蓋を開けてみれば、カネロのプレッシャーに負けることなく、鋭い左ジャブとカネロを凌ぐハンドスピードを生かした連打でカネロを圧倒し、12ラウンドを戦い抜いて堂々の判定勝利をものにしたのである。

ビボルを舐めていたカネロ陣営??

前項で書いたように、ビボルは確かにカネロに勝った。この対戦には再選条項があるようで、かなり早い時期にカネロVSビボルの第二戦が用意されそうだが、今度はカネロが勝つ、とは即答できないほどの見事さで、ビボルはカネロを封じてみせたのだ。

正直いって、ビボルは速いジャブでポイントを稼ぎ、さらに速い連打でカネロを圧倒したものの、その戦い方は12ラウンドを通してあまり変わり映えがなく、それほど優れたものではないように見えた。逆に言えば、カネロも、右のフックやオーバーハンドを軸とした強打を振るうばかりで(そしてそれらがビボルの顔面をハードヒットすることはなく、いたずらにガードの上から叩くだけで)、芸がなく、試合自体は凡戦といっていいものだった。

思うに、カネロもしくはコーチを含むカネロ陣営は、ビボルを舐めすぎていたのだろうと思う。

ビボルのテクニックは一級品かもしれないが、カネロを圧倒したのは体格差だった。左ジャブを中心にカネロを攻めたてるビボルに対して、カネロはある意味馬鹿の一つ覚えのように右のフックもしくはスウィングを軸に いきなりの強打をふるい続けた。試合後、そのカネロの右を受け続けたビボルの左上腕部は内出血を起こしているかのようだった。しかし、ビボルは試合中、それをものともせずガードを崩すことがなかった。カネロ陣営の事前の計算では強打を受けたビボルの左が痛みで下がり、テンプルやジョーを晒すことによってカネロの強打が炸裂すると考えていたのかもしれない。

要するに、僕の意見としては、カネロもしくはカネロ陣営は、ビボルの耐久力または彼の体力そのものを甘くみていた、言ってみれば舐めていたのだろうと思う。

判定では、ビボルが3-0と一方的な形での勝利を得たが、実のところ 試合自体は先に述べたように、エキサイティングなところがなく、かなり凡庸なものだったし、必ずしもビボルがカネロより強い、という感はなかったのだ。ただ、カネロの攻撃にも芸がないし、ビボルの戦い方もつまらなかった。
2人とも攻防一体というよりは、守るときは守る、攻めるときは果敢に攻めるという攻守が完全に分離しているタイプであり、たまにカウンターを狙うカネロに比べるとビボルは完全に攻守分離型の選手のようにみえた。そして、実際そういう戦い方を全ラウンドでビボルはしたのである。ビボルは確かにボクシング界きってのスーパースターを破るという栄誉を得たが、さりとて次のスターになれるような試合をしたわけではなかった。
ただただカネロがビボルを崩せなかった、それだけというのが感想なのだ。

ビボルは試合後、カネロはスーパー・ミドルの選手であり、L・ヘビーでは通用しない、と話したらしいが、カネロはこれまでコバレフ撃破など、L・ヘビー級でも戦えるだけのパワーとスピードを持っていることを証明してきた。確かに彼のパンチはビボルを崩せなかったが、ビボルの体力を正当に評価し、対策を講じてきていれば崩しようがあったように思う。タイソンが話していたようにジャブと脚を使って闘うやり方もあったはずなのである。

現代のボクシングでは、事前の戦略に基づき、相手に最適と思われる戦い方をハードトレーニングによって刷り込む。クロフォードのように相手によって試合中に戦法を柔軟に変えることができる選手はまれであり、大抵のボクサーはその戦略に沿って全ラウンドを闘う。

従って、カネロ陣営がビボルとの最適な戦い方をカネロにちゃんと与えていなかった、ビボルを甘くみて舐めてかかっていた、それが最大の敗因と思う。

(とは言っても、今回のビボルの戦い方に合わせた対策を考えたとしても再戦でビボルに勝てるとは限らない。ビボル陣営もまた、新たな戦略を講じるはずだからだ)

カネロのスーパー・スターとしての価値は、今回の敗戦で確かに傷ついたが、さりとて誰かが彼に置き換わったわけではない。次戦での戦果が彼の評価を改めるものになるとは思うが、さて、カネロの次の闘いは誰を選び、どのような結果となるのだろうか。

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。