これでワイルダーの通算戦績は42勝(41KO)1分け。本人は「来年早々にはフューリーと再戦したいね」と語った。→2020/02/22に決定したらしい!
前戦を上回る衝撃を世界に与えたワイルダー
ワイルダーはハタで言われるほど雑なボクサーではない。破格の強打を持っているため目立たないが、その強打を振り回す機会が訪れるまでは割と大人しく基本通りのワンツー重視の地味なファイトをする。ただ一度倒せるチャンスが来たとみるや、暴風のような攻撃が始まり、その殴り方がセオリーにあっていようがなかろうがとにかく手を出す。その豪快な暴れっぷりは米国でボクシングが興行として成立した頃の不穏な熱気を再現しており、ちょうど1940年代にWBAヘビー級王座に君臨した“褐色の“Brown Bomber”ことジョー・ルイスのファイトを彷彿させるのでBronze Bomberの異名で呼ばれている。
ジョー・ルイスは1938年にナチスドイツから送り込まれたボクサーとの親善試合で圧勝しアメリカ人の誇りを守った。ワイルダーは8年ぶりにヘビー級王座を米国に取り戻したという共通点もある
反対にヘビー級とは思えないテクニシャンで戦略的なボクシングをする“キングコング”ことオルティスは、2018年3月に行われた第1戦でも巧みな技術でワイルダーを苦しめた。
パワーもとても申し分のないオルティスは、僕の見立てでも、ワイルダーが最も苦手とするタイプであり、実際第1戦では10ラウンドで力尽きるまでワイルダーをダウン寸前に追い込むことさえあった。
オルティスからすれば前回も今回も作戦は一緒。とにかくその緻密なボクシングを生かして、倒せれば倒してもいいしボックスアウトして判定勝ちを狙ってもいい、肝心なのは12Rの終わりのゴングが鳴るまで立ち続けて、ワイルダーの強打の直撃を避けることだけだった。
しかし、実際には先述の如く7回でその目論見は崩れあえなく前回に続いて今回もワイルダーの軍門に降ることになってしまった。それも、ほぼただの右の一撃で。
ワイルダーの集中力と折れない心の強さ
ワイルダーが持つ凄みは、右ストレートを中心した破格の豪打にあるというよりも、なんとしてもそれを当てるという強い意思、折れない心、粘り強さなどにある。要はその豪打を直撃させるまで執念深くそのチャンスを伺い、全うする。その瞬間まで決して諦めず集中力を切らさないところにあると思う。
相手によって戦略をこまめに変えたりせず、とにかく12ラウンド・36分間 拳をハードヒットさせることしか考えないのだ。強打を当てること≒常にKOを狙うことなのだが、これに彼ほど集中できているボクサーはなかなかいない、と僕は思う。その意味で彼は紛れもなく史上最高の射手の1人であり、特に筆舌し難い破壊力を持つ右ストレートは魔弾と評するに足るものだ。
ワイルダーはオルティスとの第1戦で見せたように、やや打たれ弱いところがあり、決して絶対倒れない怪物、と言うわけではない。
だから、オルティスが採った戦略、つまりワイルダーの戦略の逆 (12ラウンド・36分間直撃を避けつつポイントアウトする、もしこちらの強打が先に当たればKOを狙っても良い)をとるのは悪くはなかった。
ただ、ワイルダーのように相手が警戒してなかなか当たらない強打を執拗に狙い続けるのはけっこう苦痛だ。避けに避けられればフラストレーションが溜まるし弱気になってコツコツ当てる地味作戦をとりたくなり、その結果相手にプレッシャーを与えられなくなる
(言ってみれば本塁打一本槍から内野安打でもいいやと切り替えたホームラン打者が迫力をなくすのと一緒だ)
そして、常に機会あればぶん回してくる相手の攻撃を避けつつも下がらない勇気を持ち続けるのも、かなり大変なことなのだ。これが常にできるのはかつてのメイウェザーやロマチェンコくらいだ。カネロでさえ、第2戦目こそゴロフキンに対して作戦を全うし、そして勝てたが、第1戦では(力負けしたということもあったろうが)相手のプレッシャーに押されロープを背負ってしまうシーンが多かった。
まさに双方において言うわ易し行うは難しなのである。