自動車専門誌Motor Magazineスタッフが、2000万円越えスーパーカー取材で感じたあれこれを独自目線でご紹介。今回は、アウディのスポーツライン「RS」系の頂点に君臨する「R8」と、まるまる1日を過ごしてみた。どちらかと言えば地味系なイメージがあったのだけれど、付き合い始めると実に刺激的。しかも、居心地がいい。なんだかとっても、誰かと同じ時間と空間を分かち合いたくなる1台だ。(写真:永元秀和)
※本連載はMotor Magazine誌の取材余話です。

はじめに。さながら大空を滑空するグライダーの如く。

マシンとの一体感を高めているのは、フォーミュラカーを彷彿とさせる「モノポストデザイン」だ。

公式発表によれば、「R8」のインターフェイスのモチーフは、F1マシンのコクピットだという。けれど個人的な第一印象は、グライダーのコクピットをイメージさせるものだった。

お断りしておくと、頭にフレッドがつくアステアではない。「バンド・ワゴン」は大好きだけれど、歌ったり踊ったりする彼とは別人だ。
こちらの「アステア」は、空を飛ぶための複座のグライダー。正式名称は「Grov G 103 Twin Astir Ⅱ」というらしい。

R8のドライバーズシートに腰をかけた瞬間、学生時代に乗っていたその「アステア」のイメージが強烈に脳裏に蘇ってきた。

40年近く前の体験を回想するきっかけは、小ぶりなバイザーがついたメーターナセルから、ドライバーを包み込むように左右対象に広がるシェルのようなデザインアレンジだ。

クルマとドライバーの一体感を見事に増幅してくれるそのタイト感はどこか、学生時代に大好きだった「アステア」に通ずるものがあったのだ。

アステアⅡの後席から見た風景。前席はもっとR8っぽかったような気が。

English: Aleksandr MarkinРусский: Александр Маркин [CC BY-SA]
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そういえばエクステリアデザインにも、そこはかとなく共通する要素があるような気がしてきた。

アステアⅡは、トレーナー機としても非常に高い評価を受けていたそう。飛翔する姿がとにかく美しかった。

Aleksander Markin [CC BY-SA)]
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巨大なエアダクトやエッジの効いたプレスラインなどを、比較的コンパクトなボディに凝縮。力強い佇まいだ。

アステアは、前後タンデムの複座機としては比較的コンパクトなボディに長めの主翼を持っていた。引き締まったサイズ感の中にあっても流麗な曲線美の持ち主だったように記憶している。たたずまいは実に可憐で、大空を滑空するさまはとても優美だった。

そんな「凝縮感」が発散するある種のフェロモンもまた、R8とアステアの類似性を感じさせるポイントのひとつだ。

特にフロントマスクは、迫力たっぷり。80年代に人気を博した「スポーツクワトロ」のエッセンスも盛り込む。

R8の全長は4430mmと、600ps超のスーパースポーツとしては比較的コンパクト。デザインの方向性そのものは、シンプルisビューティフルなアステアとは正反対で、実に雄弁なアレンジが施されている。

エッジの効いたアグレッシブなラインどりや面づかいが、これでもか!と言わんばかりの先鋭性を強烈にアピールする。

それでも間延び感のない「塊」としてのまとまり感やバランス感覚が、どこか似通っているように思えてならない。目指すスタイルトレンドこそ違えど、志のベクトルそのものはきっと近しいのだろう。