自動車専門誌Motor Magazineスタッフが、2000万円越えスーパーカー取材で感じたあれこれを独自目線でご紹介。今回は、アウディのスポーツライン「RS」系の頂点に君臨する「R8」と、まるまる1日を過ごしてみた。どちらかと言えば地味系なイメージがあったのだけれど、付き合い始めると実に刺激的。しかも、居心地がいい。なんだかとっても、誰かと同じ時間と空間を分かち合いたくなる1台だ。(写真:永元秀和)
※本連載はMotor Magazine誌の取材余話です。

大排気量自然吸気エンジンならではの、気持ちよさの無限ループ

世代的には第二世代にあたる。最新型では、フットワークがさらに洗練された印象があった。

そういえばR8は、操る楽しさもまたある意味、グライダーっぽい。

小排気量化+ターボのバリューセットで分厚いトルクを低回転域からガンガン吐き出す「速さ」の追求は、時代の趨勢(すうせい)だろう。けれどR8は今も5.2Lという大排気量V10DOHCユニットを自然吸気のままで、ドライバーズシートの背後に搭載し、4つのタイヤを絶妙な最適制御で駆動させる。

キャビン内に入り込むV10エンジンのサウンドは、高回転でも控えめ。快適なドライブを演出する。

620psの最高出力は8000rpmまで回さないと届かない。580Nmの最大トルクも、6600rpmで絞り出される数値だ。

1500rpmくらいから幅広いレンジで最大トルクを発揮する「バリューセット」勢に比べると、ともすればピーキーな印象を受けるかもしれない。

けれど、さにあらず。走りはじめからしっかりコシの入ったGを体感できる。しかもそれが伸びやかかつ澱みなく盛り上がりを見せるところもまた、大排気量&自然吸気のハイパワーユニットならではの気持ち良さだ。

日本の法定速度を守る以上、低い回転域からどれほど強烈なトルクを発揮していたって、刺激的なGを味わえるのはほんのつかの間でしかない。

けれど大排気量&自然吸気エンジンを操る感動は、加速のたびに繰り返し確実に実感できる。文字どおり「どこまでもスムーズに」回り続ける、気持ちよさがそこにはある。

ディスプレイ上に各種情報を表示するアウディ・バーチャル・コクピット。パワートルク、Gの変動も一目瞭然。

このどこまでも続く気持ちよさ、というところがキモだ。

一般的にはグライダーというと、空に飛び上がったらあとは滑空しながらゆっくり落ちてくるもの、だと思っている人が多いのではないだろうか。

なにしろ多くのグライダーはエンジンがついていない。自分で進む力も上昇する術も持たないのだから、降りてくる時間を楽しむことしかできない、と思われるのももっともだ。

しかし実際にはグライダーには「ソアリング」と呼ばれる操縦テクニックがある。それは空中のそこかしこにある上昇気流=サーマルを利用して、滑空高度を回復させる操縦術のこと。

パイロットの集中力と根気が続く限り、そして尿意と便意を我慢できる限り、理論上は永遠に大空を気持ちよく飛び続けることができるのだ。

トランスミッションは7速Sトロニック。クワトロシステムとのコンビネーションで、安定した走りを実現する。

R8もまた、あらゆるシチュエーションで加速するたびに、気持ちよさを繰り返し体感できる。
このジャンルで主流となりつつあるターボモデルならではの、思わず目ん玉をひん剥いてしまうような爆発的加速Gはとっても刺激的。けれど、繰り返していると気疲れしそう。

一方でR8の伸びやかな加速感なら、ドライバーの集中力と根気が続く限り、ウキウキワクワクが止むことはない。