日本ではお雛祭りに当たる3月3日、992型の同グレードが本国で発表された。だからこそ今、991型の最終進化形と言っていい「911ターボS」をテストドライブ。ポルシェというブランドに「ターボ」が存在することの大切さを、改めて強く思い知らされることになった。たとえほとんどみんながターボ付きになっちゃっているとしても。(写真:永元秀和/ポルシェA.G.)
※本連載はMotor Magazine誌の取材余話です。
いろんな意味で洗練されている最新にして最終の991型911ターボS。
それはもうとっても感慨深い。実車(991型ターボS)を前にした感動は、もちろんひとしお。でも正直言うと、ちょっと肩透かしを食らったような気もしていた。
かすかに記憶に残っている「ぽるしぇたーぼ」、初代930型ポルシェ911ターボは、ワイドなヒップに巨大なウイングを背負った怪鳥のような猛々しい後ろ姿の持ち主だった。それに比べると現行型はずいぶんと洗練されているように思える。
そりゃあ「ターボ」としても、すでに数世代を経ているのだから当然と言えば当然。今ふうの、空力を制するためのとてもロジカルなデザインフィロソフィがふんだんに盛り込まれているのだ。現代においてライバルと競い合うアスリートビューティらしい、引き締まった下半身(後ろ半身?)にこそ萌えるべきなのだ。
走りだってしっかり洗練されている。普通に操っている限りは極めてジェントルで快適だ。インターフェイスも、後ろ姿同様、今ふうの落ち着き感に溢れている。他の991型ラインナップの差別化をことさら強調することはなく、整然と見やすく操作しやすいデザインにまとめられている。
突出したラグジュアリー感は控えめだけれど、グランドツアラーとしてドライバーに無駄なストレスを感じさせない。それなのに刺激的な一面もしっかり持ち合わせているあたりの味付けが、絶妙だと思う。アクセルペダルを踏みこめばもちろん、怒涛の加速を見せる。そんな「クールだけど熱狂的」な二面性は、なんとも贅沢極まりない。
伝説的名指揮者も愛してやまなかった930型ターボのど迫力。
ポルシェブランドが誇る最強のレーシングスペックを、ロードモデルとして具現化することを目的に開発された911ターボ。たとえばヘルベルト・フォン・カラヤンなどなど、ポルシェを愛してやまない世界のセレブリティがこぞって愛情を注ぎまくっていたという。「ターボ」はやっぱり、デビュー当時からしっかり特別な存在だった。
だが、その役割はおそらく、911としては5代目に当たる996型に「GT」系がデビューした時(1999年 初めてGT3が市販化された)、少しばかり変化しているのかもしれない。巨大なGTウイングを生やしたサーキットスペシャルとは一線を画する方向性で、911ターボは新たなポジションを手に入れたのだと思う。
ロードカーとしての頂点に立つために磨かれた才能は幅広い。スポーツモデルとしてだけでなく、プレミアムカーとしてのキャラづけに向けた上級シフトは、とりわけ明解だ。
ちなみに911シリーズの生みの親にして70年代当時、初代ターボの開発を統括した稀代のエンジニア、ハンス・メツガーは後年、ターボ化に当たっての目的のひとつに、現代のダウンサイジングという発想と同じものがあったことを告白している。