どの世界にもライバルは存在する。互いを意識し、激しくぶつかり合い高め合っていく存在だ。オートバイロードレースの最高峰MotoGPでも数多くのライバルたちが世界一の称号をかけてバトルを繰り広げてきた。今回は、犬猿の仲からお互いをリスペクトする真のライバルとなり、さまざまな名バトルを繰り広げたダニ・ペドロサとホルヘ・ロレンソについて振り返る。MotoGPのトップライダーとして母国のスペイン、そして世界中のファンを魅了した両選手に注目したい。

スペインで大ニュースとなった歴史的和解

ペドロサが最高峰クラス3年目、ロレンソにとってデビューイヤーとなった2008年。開幕戦ではロレンソがいきなりポールポジションを獲得し、決勝も2位で終わるなど素晴らしい走りをみせた。一方ペドロサもしっかりと3位表彰台を獲得したが、表彰台で2人はお互いを無視、握手はもちろん目も合わすこともなかった。

迎えた第2戦はヘレスサーキットで行われたスペインGP。決勝はペドロサが最高峰クラスで初めてヘレスでの優勝を達成し、ロレンソは3位で連続表彰台を獲得した。プレゼンターにはなんとスペイン国王であるファン・カルロス一世が登場。国王自身もモータースポーツのファンであり、2人の関係をよく知っていたため、2人の関係修復を臨み、半ば強引に2人を握手させるという出来事があった。

もちろんお互い嫌々で、何故こんなことをさせるんだ?といった感じでしたが、なぜかそこから2人の関係は回復していくことに。2010年頃からプレスカンファレンスでも会話をするようになり、時折笑顔も見られるようになった。しかも2012年の開幕戦では2人の対談が実現するという、まさに歴史的な和解が実現したのだ。

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後にこの関係修復について2人は、「年齢を重ねるにつれて大人になり、いろんなことが理解できるようになり、関係がよくなったのでは」とコメントをしている。

チャンピオンをかけて戦った2012年シーズン

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2012年はロレンソが最高峰クラスで2度目のチャンピオンに輝いた年ですが、そのロレンソを最も苦しめたのがペドロサだった。この年チャンピオンに輝いたロレンソの総獲得ポイント数が350、惜しくもランキング2位に終わったペドロサのポイントは332だったことから接戦であったことが伺える。さらに優勝回数では6回のロレンソに対し、ペドロサは7回優勝しており、2人にとってもっとも激しいシーズンだったのではないだろうか。

この年、特に印象的だったレースが第12戦チェコGPだ。2人はお互い得意としている逃げ切りパターンに持ち込ませないように、順位を入れ替えながら何周にもわたってバトルを展開。勝負は最終ラップの最終コーナーまでもつれ、ペドロサが0.178秒差で優勝をもぎ取る結果となった。

何度も順位を入れ替え、一歩も退かない緊迫したバトルだったが、クリーンな真っ向勝負で行われたこの激闘は、名場面として多くのファンの間で語り継がれている。

Best Battles: Dani Pedrosa vs Jorge Lorenzo in Brno

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「健全な」ライバルとして活躍した2人の現在

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2010年頃から少しずつ関係が修復され、お互いリスペクトし合いながらも、激しいバトルを繰り広げてきたロレンソとペドロサ。ペドロサは2018年に現役を引退し、長年共に戦ってきたホンダを離れ、KTMのテストライダーに就任。ペドロサが加入して以降、KTMのパフォーマンスが向上し、2020年シーズンでは最高峰クラスでの初優勝を含む2勝をマークするなど、バイクを開発する立場としてチームに貢献している。

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ロレンソも2019年で現役を引退。キャリアの最後はホンダだったが、3度世界チャンピオンの称号を共に勝ち取ったヤマハに戻り、ヤマハのテストライダーに就任。早速シーズン前のセパンテストでも走行し、情報をチームにもたらした。今もなお現役の生きる伝説、ヴァレンティーノ・ロッシとバイクについて話し込む姿も見られ、ロッシ自身もロレンソの仕事ぶりを評価していた。

そんな2人が、MotoGPメーカーのプライベートテストのためポルトガルのポルティマオサーキットに集結。もちろんテストのため争うことはないのだが、かつてライバルだったライダーと共に走れることを2人とも楽しみにしていたようだ。

今もなお現役並みの速さを誇るロレンソとペドロサが、今後各メーカーのバイク作りにどのように貢献していくのか、ぜひ注目したい。

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河村大志|Taishi Kawamura
2輪、4輪問わず幅広くモータースポーツの取材・執筆を行うフリーランスのモータースポーツジャーナリスト兼スポーツライター。F1やMotoGPといった世界最高峰のカテゴリーだけではなく、各国の若手育成プログラムやモータースポーツに関する歴史などを取材し、研究テーマにすることをライフワークにしている。