スペインで大ニュースとなった歴史的和解
ペドロサが最高峰クラス3年目、ロレンソにとってデビューイヤーとなった2008年。開幕戦ではロレンソがいきなりポールポジションを獲得し、決勝も2位で終わるなど素晴らしい走りをみせた。一方ペドロサもしっかりと3位表彰台を獲得したが、表彰台で2人はお互いを無視、握手はもちろん目も合わすこともなかった。
迎えた第2戦はヘレスサーキットで行われたスペインGP。決勝はペドロサが最高峰クラスで初めてヘレスでの優勝を達成し、ロレンソは3位で連続表彰台を獲得した。プレゼンターにはなんとスペイン国王であるファン・カルロス一世が登場。国王自身もモータースポーツのファンであり、2人の関係をよく知っていたため、2人の関係修復を臨み、半ば強引に2人を握手させるという出来事があった。
もちろんお互い嫌々で、何故こんなことをさせるんだ?といった感じでしたが、なぜかそこから2人の関係は回復していくことに。2010年頃からプレスカンファレンスでも会話をするようになり、時折笑顔も見られるようになった。しかも2012年の開幕戦では2人の対談が実現するという、まさに歴史的な和解が実現したのだ。
後にこの関係修復について2人は、「年齢を重ねるにつれて大人になり、いろんなことが理解できるようになり、関係がよくなったのでは」とコメントをしている。
チャンピオンをかけて戦った2012年シーズン
2012年はロレンソが最高峰クラスで2度目のチャンピオンに輝いた年ですが、そのロレンソを最も苦しめたのがペドロサだった。この年チャンピオンに輝いたロレンソの総獲得ポイント数が350、惜しくもランキング2位に終わったペドロサのポイントは332だったことから接戦であったことが伺える。さらに優勝回数では6回のロレンソに対し、ペドロサは7回優勝しており、2人にとってもっとも激しいシーズンだったのではないだろうか。
この年、特に印象的だったレースが第12戦チェコGPだ。2人はお互い得意としている逃げ切りパターンに持ち込ませないように、順位を入れ替えながら何周にもわたってバトルを展開。勝負は最終ラップの最終コーナーまでもつれ、ペドロサが0.178秒差で優勝をもぎ取る結果となった。
何度も順位を入れ替え、一歩も退かない緊迫したバトルだったが、クリーンな真っ向勝負で行われたこの激闘は、名場面として多くのファンの間で語り継がれている。
「健全な」ライバルとして活躍した2人の現在
2010年頃から少しずつ関係が修復され、お互いリスペクトし合いながらも、激しいバトルを繰り広げてきたロレンソとペドロサ。ペドロサは2018年に現役を引退し、長年共に戦ってきたホンダを離れ、KTMのテストライダーに就任。ペドロサが加入して以降、KTMのパフォーマンスが向上し、2020年シーズンでは最高峰クラスでの初優勝を含む2勝をマークするなど、バイクを開発する立場としてチームに貢献している。
ロレンソも2019年で現役を引退。キャリアの最後はホンダだったが、3度世界チャンピオンの称号を共に勝ち取ったヤマハに戻り、ヤマハのテストライダーに就任。早速シーズン前のセパンテストでも走行し、情報をチームにもたらした。今もなお現役の生きる伝説、ヴァレンティーノ・ロッシとバイクについて話し込む姿も見られ、ロッシ自身もロレンソの仕事ぶりを評価していた。
そんな2人が、MotoGPメーカーのプライベートテストのためポルトガルのポルティマオサーキットに集結。もちろんテストのため争うことはないのだが、かつてライバルだったライダーと共に走れることを2人とも楽しみにしていたようだ。
今もなお現役並みの速さを誇るロレンソとペドロサが、今後各メーカーのバイク作りにどのように貢献していくのか、ぜひ注目したい。
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河村大志|Taishi Kawamura
2輪、4輪問わず幅広くモータースポーツの取材・執筆を行うフリーランスのモータースポーツジャーナリスト兼スポーツライター。F1やMotoGPといった世界最高峰のカテゴリーだけではなく、各国の若手育成プログラムやモータースポーツに関する歴史などを取材し、研究テーマにすることをライフワークにしている。