事前の情報不足もあって、若干の不安と共にカルディナで走ったロシア大陸。
1日あたり悪路を1000km以上走行するようなハードな毎日の連続だったが、ロシア西端に位置するサンクトペテルブルクに至り、ようやくひと息つくことができた。このロシア第二の都市は、帝政ロシア時代の首都であり、そしてまたロシア革命勃発の地でもある。18、19世紀の建造物が美しく立ち並ぶ、その歴史的な街並みを満喫した。
文:金子浩久/写真:田丸瑞穂
※本連載は2003〜2004年までMotor Magazine誌に掲載された連載の再録です。当時の雰囲気をお楽しみください。

ロシアを離れる前にサンクトペテルブルクで楽しむつかの間の休息

刺されたタイヤも交換できて、B&Bにも3泊分の予約とともにチェックインできた。あとは、4日後のフェリーに無事に乗船するだけだ。カルディナは、ヴォスターニャ広場の駐車場に預けてある。

やるべきことは、すべてやり終えた。明日からの3日間は、ここサンクトペテルブルグで、ようやく少しの休息を取ることができる。

ウラジオストクからここサンクトペテルブルクまで、トラブルはあったものの無事にロシア横断を終えたカルディナ。当初は陸路でのヨーロッパ入りを予定していた。だが東欧諸国の社会情勢などを考えた結果、フェリーでドイツに入ることにした。

この日の晩は、ロシアを無事に横断できた祝杯を挙げることにした。

酒とつまみは、フォンタンカ川を渡ったネフスキー通り沿いのパサージュ百貨店で仕入れた。ロマノフ王朝時代の1848年に建設された建物は、1990年に改装されている。店内は清潔で整理整頓されている。これまで入ってきたロシアの他の店々からは想像できない。ここはもう、完全にヨーロッパだ。

味わうためでなく酔うために飲むウォトカ

ロシア産のビール、グルジア産のウォトカ、つまみのチーズ、ナッツ、魚のパテ缶、アレクセイさんが「ウォトカにはこれじゃなきゃ」と強調するキュウリの酢漬けなどを買う。

B&Bで割り当てられた部屋はそれぞれ違っていたので、一番広い田丸さんの部屋で宴が始まった。大きなダブルベッドの上には、デジカメから画像を取り込んでいるマッキントッシュのパワーブック、腰痛のための常備塗り薬などが散らかっている。

僕が、そこそこ味わいのあるグルジア産ウォトカをチビチビと味わって飲んでいると、それを見たアレクセイさんがダメだという。

「臭いウォトカは、こうやって左手の指で鼻をつまみながら、グッと一気に飲み干さないと!」

臭さ、イコール風味なのではないか。40度以上あるウォトカを一気に飲み干したりしたら、すぐに酔っぱらってしまうじゃないか。ロシア人は、ろくに味わいもせず、たた酔うためだけに飲んでいる。酔っぱらいが多いわけだ。

「何を言っているんですか。酔っぱらうために飲むんじゃないですか」

そう言う彼は、もう酔っぱらい始めている。

ユーラシア大陸最西端のロカ岬に辿り着くまでにはまだ少し行程が残っていたが、どうにかロシアの西の端まではこうしてやってくることができた。少しの到達感とともに飲む酒がとても美味い。他愛もない話題で盛り上がる。

アレクセイさんに教えてもらうまでもなく、ここまでの旅でロシア人の飲み方の激しさは少しはわかっていた。味わうのではなく、酔うために飲んでいる。そうしたロシア人の飲み方に、田丸さんは同じ飲み方で付き合う。薄い琥珀色のウォトカが、どんどん減っていく。伏木港からウラジオストクまでのフェリーでも、中古車ブローカーの酔っぱらいイーゴリとベロンベロンになっていたっけ。