事前の情報不足もあって、若干の不安と共にカルディナで走ったロシア大陸。
1日あたり悪路を1000km以上走行するようなハードな毎日の連続だったが、ロシア西端に位置するサンクトペテルブルクに至り、ようやくひと息つくことができた。このロシア第二の都市は、帝政ロシア時代の首都であり、そしてまたロシア革命勃発の地でもある。18、19世紀の建造物が美しく立ち並ぶ、その歴史的な街並みを満喫した。
文:金子浩久/写真:田丸瑞穂
※本連載は2003〜2004年までMotor Magazine誌に掲載された連載の再録です。当時の雰囲気をお楽しみください。

19世紀と現代が混在する大都市の不思議な印象

ピザハットの斜め前の五つ星ホテル、パレスホテルに入ってみた。レセプションの対応もよく、段取ってくれたが、一時不在のビジネスセンター担当者を待たされるのを待ち切れず、出てきてしまった。

そこから数十歩西へ歩くと、今度はSASラディソンホテルがある。ここは、レセプション脇のビジネスセンターをすぐに使わせてくれた。敷設されていたLANコード経由では自分のマックはつながらなかったが、ダイアルアップでインターネットに接続することができた。

ここで送稿作業を終え、B&Bに戻ったら、すでに夕方になっていた。じきに、田丸さんとアレクセイさんも戻ってきて、散歩しながら夕食を摂りに出掛けることにした。

サンクトペテルブルグは帝政ロシア時代に首都だっただけのことがあって、整然とした街並みが美しい。資本主義による無秩序な開発から無縁だったためか、石造りの古い建物が運河沿いにたくさん残されている。結果的に、社会主義が街並みの整いを守ったことになる。

画像: そのクラシックな雰囲気にひかれて、思わず室内を撮影した駐車中の1台。60年代前半製の「ボルガ」だと思われる。

そのクラシックな雰囲気にひかれて、思わず室内を撮影した駐車中の1台。60年代前半製の「ボルガ」だと思われる。

サンクトペテルブルグが他のロシアの街と決定的に違うのは、道を走っているクルマを見てもわかる。ジグリやボルガも走っているが、眼にする割合が圧倒的に小さい。ポンコツ車も、珍しい。

大多数は、西ヨーロッパの街々と変わらず、フォルクスワーゲンやオペル、フォード、ルノーなどだ。メルセデスベンツやBMW、アウディなどの高級グレードも違和感なくストリートに溶け込んでいる。ポルシェも、何台も見た。

街並みは19世紀的なのに、走っているクルマと店々は現代を体現していて、不思議な感じがする。

ネフスキー通りをフォンタンカ川沿いに北へ曲がり、レストラン「プロパガンダ」に入ってみた。店は、川に面した古い建物の半地下スペースをリニューアルしたもので、その外装とインテリアに惹かれたのだ。ロシア構成主義風、ロシア・アバンギャルド風のデザインが施されているのだ。

でも、メニューにはフレンチやイタリアンのそれらしい料理が並んでいる。ワインリストだって、分厚い。そして、値段も西ヨーロッパ並みの高さだ。つまり、金持ちで流行の先端を行く人を相手にしたレストランなのだ。当然のように、席は予約で一杯で、飛び込みの僕らは座ることはできなかった。

この店は、いまサンクトペテルブルグで最もオシャレでイケてる店らしかった。翌日、SASラディソンホテルのビジネスセンターでインターネットにアクセスしていると、すぐ横にいるコンシェルジェに、予約を頼みに来る宿泊客が続けて二組現れていたからだ。いずれも、センスのいい高そうな身なりをしていた。

ロシアの他の街では、様々なかたちでソ連時代の呪縛から完全に解き放たれていない側面が確認できたが、サンクトペテルブルグでは違っていた。むしろ、呪縛を遺産化し、このレストランのように積極的にビジネス・コンテンツとして活用する段階に達している。もう一度、行ってみたい。
(続く)

サンクトペテルブルクを出発して、フェリーで次なる地のドイツを目指す。海を渡る風は冷たく、そして時間は退屈に過ぎていった。

画像1: ユーラシア大陸自動車横断紀行 Vol.16 〜つかの間の休息〜

金子 浩久 | Hirohisa Kaneko
自動車ライター。1961年東京生まれ。このユーラシア横断紀行のような、海外自動車旅行を世界各地で行ってきている。初期の紀行文は『地球自動車旅行』(東京書籍)に収められており、以降は主なものを自身のホームページに採録してある。もうひとつのライフワークは『10年10万kmストーリー』で、単行本4冊(二玄社)にまとめられ、現在はnoteでの有料配信とMotor Magazine誌で連載している。その他の著作に、『セナと日本人』『レクサスのジレンマ』『ニッポン・ミニ・ストーリー』『力説自動車』などがある。

画像2: ユーラシア大陸自動車横断紀行 Vol.16 〜つかの間の休息〜

田丸 瑞穂|Mizuho Tamaru
フォトグラファー。1965年広島県庄原市生まれ。スタジオでのスチルフォトをメインとして活動。ジュエリーなどの小物から航空機まで撮影対象は幅広い。また、クライミングで培った経験を生かし厳しい環境下でのアウトドア撮影も得意とする。この実体験から生まれたアウトドアで役立つカメラ携帯グッズの製作販売も実施。ライターの金子氏とはTopGear誌(香港版、台湾版)の連載ページを担当撮影をし6シーズン目に入る。

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