プロの殺し屋に自分を殺してもらう契約をしたものの急な事情でしばらく死ぬわけにはいかなくなった青年と、絶対契約破棄を受け付けたくない殺し屋が巻き起こすドタバタ劇。

死にたくはないが死を恐れることはない青年を「ダンケルク」出演のアナイリン・バーナードが好演

自殺願望のある小説家志望の青年ウィリアム(アナイリン・バーナード)。何度やっても失敗してなかなか死ねないことに業を煮やして、プロの暗殺者レスリー(トム・ウィルキンソン)に自分を殺してもらう契約を交わすが、その後すぐに自分の作品の出版のチャンスが訪れる。

しかも、出版社の担当女性と恋に落ちるウィリアムは、レスリーに契約破棄を申し出るが、自身のノルマ達成に必死なレスリーはそれを受け付けない。

死にたがりの青年が生きる目標を得た瞬間に、命を狙われる羽目になるという、不条理を描いたブラックコメディだが、自殺欲求が強い青年役を演じるバーナードの、病んだ感じの目がとてもいい。また、彼の恋人となる出版社の担当女性エリー(フレイヤ・メーバー)は毒舌ぶりと性格の悪そうな目線で見事にキャラ立ちしており、さほど美人というわけでもないものの独特の魅力を放っている。

伝説的殺し屋ながら、老いて周囲から引退を示唆されるレスリー役のウィルキンソンももちろん良い。彼と妻、彼と殺し屋組織の上司とのやりとりなどは、自身の衰えの自覚を拒否する老人の悲哀を描きつつも、その抵抗に対する温かい視線を感じて微笑ましい。

素材を生かし切った好感持てる作品

本作は90分ほどの長さの小品であり、ストーリーも比較的シンプル。あまり捻りもなく、設定もしくはプロットの面白さに最後まで忠実な作品だ。
逆に言えば、とても素直な映画であり、脚本を逸脱するようなアイデアや工夫よりも、巧みな演出と演技によって素材を生かし切ることに専念していると言える。

全体的に、英国作品らしいブラックユーモアを感じる、スパイシーな一本だ。殺し屋が出てくる作品だけに、けっこう人死が出るのだが、残虐さを感じさせることがなく、あくまで淡々とながれていく。要は必要以上に香辛料を効かせることがなく、絶妙な味わいを観客は楽しめるようになっている。

素材を生かした、余計なことは何もしていないストレートな作り方。それが本作を評価するうえで最大の賛辞であると僕は思った。

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共