ユーラシア大陸最西端の地、ロカ岬に到達したからといって大陸横断の旅が終ったわけではない。大きな目的は達成したが、まだその後のスケジュールが残っているからだ。一緒に動いていた田丸カメラマンは、パリから日本へと先に帰国した。そして金子氏は、カルディナとともにロンドンへと向かう。
文:金子浩久/写真:田丸瑞穂
※本連載は2003〜2004年までMotor Magazine誌に掲載された連載の再録です。当時の雰囲気をお楽しみください。

日常的につながっていた
フランスとイギリス

A16への標識は、変則的にA1の手前にあった。これじゃ見付からないはずだ。ここだけ順番が逆転している。一般道のN1を30分ほど走り、自動車専用高速道のA16に乗る。ここからカレーまでは200数十キロの道のりだ。大きな分岐もないので標識通りに走れば間違いなく着く。

A16は空いていた。ロシアの道路も空いていたが、この道もあまりクルマに出会わない。ゆるやかな起伏が続く土地がどこまでも続いていく。追い越し際に眼に入る、イギリスナンバーのジャガーやローバーが段々と増えていく。ヨーロッパ大陸からイギリスへ帰るクルマだ。

ユーロトンネルのすぐそばでオートルート上に表示されていた標識。トラックは専用の出口へと誘導されていく。カルディナはこのまま直進して、ツーリスト用のターミナルを目指す。

カレーまでまだ20数キロもあるのに、A16がある丘の頂きに達する地点で、一瞬ドーバー海峡越しに対岸のイギリスが見えた。そそり立つ岸壁の“地層部分”が白く、海と空の青さと対照的で、鮮やかだった。

何の前触れもなかったので一瞬戸惑ったが、もう一度観てみたかった。サービスエリアを兼ねた展望スペースでもあるだろうと期待していたが、甘かった。現れたのは、「ユーロトンネル」と「フェリーおよびカレー市内」、「ダンケルク市内」という標識だけだ。

トンネル方面に進んでいくと、通行料金支払いゲートが現れた。片道230ユーロ、往復300ユーロ。ビックリするほど高い。前の晩、インターネットに書かれていた数年前の値段では120ユーロとあった。大幅値上げなのか、間違った記述なのか。

でも、ここで慌てても仕方がない。ネットの情報は最後までよく吟味せよという教訓だ。もちろん、クレジットカードで支払う。ついでに、列車の便を指定させられる。クルマは列車に乗り、列車がトンネルを通過する。一番早い約20分後のを頼む。

もうひとつゲートがあり、そこがフランスのパスポートコントロールと税関だった。複数列にクルマが並び、見ているとほとんどのクルマはパスポートを提示しただけで済んでいる。さすがに、練馬ナンバーと汚れた見慣れないカルディナ(そう、ここまで来るとウラジオストクでは99%を占めていた日本車も超少数派だ)は珍しく、脇に呼び止められ、一通りのことを訊ねられる。

「どこから来たんだ?」
東京からです。

「で、このクルマはヨーロッパのどこで受け取ったんだ?」
東京から走ってきたんです。

「えっ!おまえが走ってきたのか」
もちろん。一緒だった友達はパリから飛行機で帰ったけど。

「気を付けて」

次に、イギリス入国のためのパスポートコントロールが控えているのだが、順路がうまくできていて、巨大な免税品店の前を通るように誘導される。

カルディナを停め、中に入ってみるとワインをはじめとする各種の酒と食品、タバコ類をたくさん売っている。ワインを木箱単位で買っていく人が少なくない。これから訪れるロンドンの友人のためにワインを買おうかと考えたが、一緒に酒を飲んだことがないのを思い出したので、フォアグラの瓶詰めとキャンディを手土産に買った。
(続く)

ランプウエイを下っていくと、そこにユーロトンネル社が運行するシャトル列車が待っている。機関車の後ろにズラリと連結された専用の車載車両に、そのまま自走でクルマごと乗り込方式をとる。

金子 浩久 | Hirohisa Kaneko
自動車ライター。1961年東京生まれ。このユーラシア横断紀行のような、海外自動車旅行を世界各地で行ってきている。初期の紀行文は『地球自動車旅行』(東京書籍)に収められており、以降は主なものを自身のホームページに採録。もうひとつのライフワークは『10年10万kmストーリー』で、単行本4冊(二玄社)にまとめられ、現在はnoteでの有料配信とMotor Magazine誌にて連載している。その他の著作に、『セナと日本人』『レクサスのジレンマ』『ニッポン・ミニ・ストーリー』『力説自動車』などがある。

田丸 瑞穂|Mizuho Tamaru
フォトグラファー。1965年広島県庄原市生まれ。スタジオでのスチルフォトをメインとして活動。ジュエリーなどの小物から航空機まで撮影対象は幅広い。また、クライミングで培った経験を生かし厳しい環境下でのアウトドア撮影も得意とする。この実体験から生まれたアウトドアで役立つカメラ携帯グッズの製作販売も実施。ライターの金子氏とはTopGear誌(香港版、台湾版)の連載ページを担当撮影をし6シーズン目に入る。

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