Mr.Bike BGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第47話「恋する歯車」より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集 by 楠雅彦@dino.network編集部
憂鬱に蝕まれる中年の心・・・
自分よりはるかに年若の女編集者の勧めで、持ち込んだ長編漫画を30ページほどに短縮して再度仕上げてみたものの、苦労は結局報われず、原稿が雑誌に掲載されることはなかった。もちろん原稿料も入らない。費やした労力は計算されない、これはこたえた。
長年勤めたテレビ局を辞めて漫画家を目指したものの、齢57になる私だ、もともと簡単に願いが叶うと思っていたわけではない。とはいえ、努力をしても報われない、そんな日々が続けばさすがに心折れそうになるというものだ。
まして、夏が去りつつあるとはいえ、雨もようが続いて、そこいらじゅうがカビ臭い。ウツウツとして、自分の内側までカビそうだ。
まだまだカウント8、オヤジはしぶといぜ。
所詮無理だったのさ、と大人の考えがふと胸をよぎる。
いやいや、まだまだこれからさ、と私の中のリトル松ちゃんが気合を入れようとする。
あきらめとなんとか奮い立たせようとする気持ちが交互にやってきて、考えるたびに心臓がバクバク音をたてる。
少しでも気分を変えようと、私はあてもなくバイクを走らせた。
そもそも長い業界暮らしのなかで、いつだってトラブルは友達だった。長雨の合間に日が差せば立ち直りもはやい私だ。あきらめと半々、カウント8で立ち上がるボクサーの気分だ。
そうさ、と私はヘルメットの中で呟いた。
まだまだカウント8だ。ノックアウトされたわけじゃない。
立ち上がってファイティングポーズをとれば、また試合は再開だ。まだまだカウント8、終わったわけじゃない。
ハーレーの振動は私の心臓に共鳴を起こし、明日に向かって再び立ち向かう気力を与えてくれたのだった。そうさ、まだまだカウント8だ。
楠 雅彦|Masahiko Kusunoki
湖のようにラグジュアリーなライフスタイル、風のように自由なワークスタイルに憧れるフリーランスライター。ここ数年の夢はマチュピチュで暮らすこと。