だけどそんな松ちゃんに新しい出会いが訪れる?
Mr.Bike BGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第50話「恋はシャバダバ」より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集 by 楠雅彦@dino.network編集部
なぜか毎日がつまらない。そんな心境に陥ってしまったのは中年の危機?
バイクで飛ばせば大抵の心配事は吹き飛んだ。若い頃はそれでよかった。
ところが最近はどうだ。なにがどう面白くないのかわからないが、とにかく今の気分は・・・つまらない、面白くない。
晴れない霧の中を走るようで、どうにも気分が上がらない。どうしたらこの気分から抜け出せるのか?答えを探しながらも、答えなんてないんじゃないか?という不安も消えてなくならない。一体私はどうなってしまったというのか?
気分転換のコーヒーを求めていつものカフェに立ち寄った松ちゃんを、思いがけない出会いが待っていた
あてもなく走れば答えにぶつかる。若い頃の私はそうだった。しかし、とうに50を過ぎたこの頃ではバイクで走るにも目的地が必要になってきている。私は行きつけの喫茶店 炉煎(ロイ)に向かった。
「いらっしゃい!」店に入ると、いつものようにマスターが惜しむような微妙な笑顔で迎えてくれた。
珍しく先客がいる。バイク乗りらしい格好をした若い女だ。外のバイクはどうやら彼女のものらしい、そんなことを思いながら店内に入った私に振り向いた女が急に声をかけてきた。
「この前はお世話さま!」
えっ?
不意なことで私はたじろいだ。
「なんだ、知り合いか?」とマスターも意外そうな顔で言う。
どこで知り合った?バイクで追い抜きでもしたか?
声をかけてきた女の顔を見返した私は、必死に記憶のかけらを探そうと頭を巡らせ、ほどなく一つのヒントに思い当たった。
「ああ、あの時の」
それはつい最近の出来事だった。
突然路上に飛び出てきた猪に接触して竹林に突っ込んだ若い女ライダーを助けたことがあった。どうやら彼女はその時の女らしい。
年齢は関係ない、イイ女と出会えば憂鬱は吹き飛ぶ、それが男ってものだろ?
「この人に助けてもらったの、おじいちゃん」と女は言った。
おじいちゃん⁉︎
私は彼女の言葉を聞きとがめた。
「孫のソノミだ」わずかな笑顔さえ出し惜しみするマスターが言った。「そうか、松ちゃんに世話になったのか」
見たところ20代だろうとは思うが、私は最近の若い女の年齢を推し量る能力をすっかり失っている。20代に見えて、下手したらまだ十代だってこともあるかもしれない。ただ、その派手めの風貌ながら、それなりの美女であることは今さらながら察することができた。
ふーん、アンタもバイク乗るんだ、女は、ソノミは言った。確かに出会った時は私は車だったが、彼女が生まれる前からバイク乗りの私には、少し心外な言葉。私は軽くうなづいただけで返事はしなかった。
同じ趣味の若いイイ女と知り合える幸運、あなたならどうする?
どうしたい?
いくつになっても、イイ女との出会いは心湧き立ちますよね。いい知れない不安なんか、吹っ飛びますよ、男なんていくつになっても男の子ですから。ね?
楠 雅彦|Masahiko Kusunoki
湖のようにラグジュアリーなライフスタイル、風のように自由なワークスタイルに憧れるフリーランスライター。ここ数年の夢はマチュピチュで暮らすこと。