見事な判定勝ちでジョシュアからベルトを奪うことに成功した。2人は共にロンドン五輪での金メダリスト(ジョシュアはスーパー・ヘビー級、ウシクはヘビー級の王者)。
ジョシュア198cm、ウシク190cm
最近のヘビー級は巨大化が顕著だ。タイソン・フューリーが206cmで120Kgを超える巨体。ワイルダーも201cm、ジョシュアも198cmと、ほぼ2メートルクラスの巨人たちが王座を占めている。
この状況を見て、WBCはヘビー級とクルーザー級の間に、ブリッジャー級(200ポンド=90.719Kg以上 224ポンド=101.604Kg未満)を設置した(他の団体は今のところ追随はせず静観している)。つまりクルーザー級は上限200ポンド=90.719Kgになるわけだから、仮にタイソン・フューリーが試合の契約ウェイトを120Kgとしたならば、30Kgもの差が生まれることになり、パンチ力にも耐久力にも想像を絶する格差が生まれてしまうことになる。
これがWBCがブリッジャー級設置に動いた理屈なのだが、問題なのはモハメド・アリやマイク・タイソンなどの往年の名王者達のほとんどがヘビー級ではなくこのブリッジャー級に収まってしまうこと....。まあそれはとりあえず横に置くとしても、昨今のヘビー級ボクサーの大型化は、新階級の設立を検討させるほど顕著になっているのは事実であり、かつてのように巨体を持て余してスピードのあるボクサーに翻弄されるようなことがない、パワーとスピードを併せ持つ巨神兵がどんどん生まれてきている状況なのである。(かつてのヘビー級の中心選手層が身長190cmクラスとすれば、現在は200cmクラスが中心になってきているのは事実だ)
ブリッジャー級をどう評価するかはおいて、今回のウシクはクルーザー級からヘビー級に階級アップをしてきたわけだが、クルーザー級からヘビー級王座の奪取に成功したのは、歴史上イベンダー・ホリーフィールドただ1人。(クルーザー級の一つ下のライト・ヘビー級からヘビー級を制したロイ・ジョーンズJr.という例外中の例外もいるが)
それだけ下の=軽いクラスからヘビー級にアジャストするのは難しい。ましてや、大型化が顕著な今のヘビー級では、というのがこのウシクの挑戦に対する、否定的な観測の根拠であった。
ウシクは、身長190cmと、決して小さい選手ではない。だが、アンソニー・ジョシュアと相対するといかにも小さく感じる。まして、ジョシュアはパワーだけでなくテクニックも一級品も目されているから、ウシクが如何にこれまで無敗(18戦18勝13KO)で、無類のテクニシャンであっても圧倒的な体格差を埋めることはできない、と皆が思ったのである。
試合結果と 今回勝ってしまったことによって生まれる責任
ところが蓋を開けてみると、ウシクがアンソニー・ジョシュアを圧倒。反撃を許すシーンがないわけではなかったが、全体的に速いジャブと細かいカウンターで試合をコントロールしたのだ。
ジョシュアからすると信じがたいことであったかもしれないが、ウシクのテクニックはジョシュアのそれを上回り、かつ、明らかに劣勢であったはずのフィジカルの差をも埋めきった。
KO決着をあえて望まないテクニシャン同士の攻防は、結局ウシクが制し、3-0の判定でジョシュアを下し、彼が持っていた3つのベルトを全て奪い、3団体統一チャンピオンの座に着いた。
彼の勝利は、ブリッジャー級を設置したWBCの幹部たちからすればアテが外れたというか、若干思惑とは異なる結果であったかもしれないが、ウシクの試練はむしろこれからである。
ジョシュアは120%再戦を望むであろうし、ヘビー級のメインボードに名乗りをあげたウシクは、これからタイソン・フューリーなりワイルダーなりのスーパー・ヘビー級のパワーボクサーとの対戦を期待される。ウシクはすでに34歳(1987年1月生まれ)。やるべきことの多さに比べ、残された時間はそう長くない。
その期間のうちで、今回の勝利は歴史的な快挙ではあるが、真のスーパースターとしての地位と名声を勝ち得るには、ここから先の数試合での闘い方がモノをいうし、せっかくの今回の勝利が持つ意味や意義を何倍にも大きくするチャンスと 同じくらい大きなリスクが目の前にあるのだ。
小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。
ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。