“精密機械(ハイテク)”、“ボクシング史上最高傑作”など最上級の異名を持ち、アマチュアでは396勝1敗、2回連続の五輪金メダル獲得という華々しい戦績を残してプロ入り。史上最速で3階級制覇したロマチェンコに、日本の中谷正義が挑戦したが、善戦虚しく、9ラウンドで力尽きた。

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中谷がロマチェンコの衰え?を突けるか、ロマチェンコが復活をアピールできるか

ロマチェンコは元世界ライト級3団体統一王者。テオフィモ・ロペスとの4団体統一マッチにまさかの敗戦を喫して無冠となって以来の復帰戦の相手に選ばれたのは、日本の中谷(20戦19勝13KO1敗)。ライト級としては長身(182cm)で、見た目の穏やかさとは裏腹の闘志あふれるファイトとタフネスを持つ良いボクサーだ。中谷の唯一の敗戦は、ロマチェンコが敗れたロペスとの試合(判定)であり、しかも相当の善戦をしたということで、今回のビッグチャンスをモノにしたと言える。

下馬評では、ロマチェンコ圧勝だが、2020年10月のロペス戦以来の試合であるうえ、その試合中に痛めたとされる右肩の手術を受けたばかりという理由から、中谷に全くのチャンスがないというわけでもないと言われている。

また、ハイテクとまで言われたロマチェンコにして、そもそもフェザー級上がりの彼にとってライト級は大きすぎる(ベストマッチする階級はフェザーかスーパー・フェザー級なのではないか?)という見方があるうえ、30歳を超えた彼は既に衰えてきているのではないか?(ロマチェンコは1988年2月生まれ。中谷も1989年3月生まれなので年齢的には変わらないが、加齢による衰えは当然個人ごとに違う )とも見られている。

精密機械だけに、少しの錆びつきが致命傷になるのではないか?と思われているわけで、彼が復帰を果たして ドネアやパッキャオのように年齢を超えたパフォーマンスを見せられるかどうかは、勝敗を超えた注目を集めていると言えるのである。

その意味で言えば、中谷は単なる咬ませ犬ではなく、ロマチェンコ陣営にとってはかなり危険な相手だ。長身もそうだが、何よりハートが強いボクサーだ。対ロペスの敗戦後の復帰戦で、ライト級プロスペクトの1人 フェリックス・ベルデホに2度のダウンを喫しながらも逆転KOで勝利をもぎ取ったことで、心身ともにタフであることを証明している。

ライト級に留まることを選択したロマチェンコとしては、このクラスとしても体格に恵まれ、ロペスにも善戦した中谷を倒して S・フェザーかフェザーに階級を落とすことが復活の鍵と叫ぶ有識者層の声を打ち消そうとしていると言える。
そして、中谷からすれば、ここでビッグネームのロマチェンコを喰えば、新たに世界王者への切符を手に入れることができる。信じられないほどのどデカいチャンスが目の前にやってきたと言えるのである。

試合展開→下馬評通り??

1ラウンドから、サウスポーのロマチェンコがオーソドックスの中谷に強めのプレッシャーをかける展開。バッティングによりロマチェンコが額から出血するが、それほど深い傷ではなさそう。

両者を比べると、やはり中谷の体格的優位は圧倒的。ロマチェンコがかなり小さく見える。同時に、ボクシングスキルではロマチェンコが圧倒的に上。中谷はいいように打たれるが、一撃で相手を昏倒させるパワーはロマチェンコにはなく、反対に体格に勝る中谷のパンチはロマチェンコにとって直撃はなんとしても避けたい類のものだ。それだけに、ロマチェンコからすれば、攻撃をしながらもディフェンスにかなりの神経を使わされる。

逆に言えば、中谷はいくら打たれようとも、1発いいパンチを当てれば逆転できる。その想いが彼をして、勝機を信じさせ、ロマチェンコの猛攻に真っ向から立ち向かう気力につながっているのである。

が、その強いハートの中谷にも終わりは訪れる。
第9ラウンド、それまでロマチェンコの左ストレートを顔面に打たれ続けた中谷は、蓄積したダメージを堪えきれず、失速。ここぞとばかりに攻めかかるロマチェンコのパンチの嵐の中、膝を折りかけた中谷をみて、ついにレフェリーが試合を止めた。(第9ラウンドTKO)

中谷は、残念ながらビッグチャンスをモノにできず、キャリア初のKO負け。
反対に、ロマチェンコはライト級でも輝きを放てる強さと、加齢による衰えの指摘に激しく反証する見事な復帰を果たした。

ロマチェンコの王座復帰はあるか?

この試合は、4団体統一王者のロペスへの挑戦権を賭けた前哨戦の色合いが強かったが、今回の勝利でロマチェンコはロペスとの再戦をグッと引き寄せたといえる。

そもそも前回のロペス戦の結果については疑問を呈する声(つまりロペスの勝利を疑う声)が高かったわけだが、ロマチェンコの油断というか、慢心の結果という見方もあった。
今回の中谷戦で、ロペスに受けた敗北から得た教訓から多くを学んだ≒あまり様子を見ることなく、早いラウンドから勝負をかける必要性 を学んだロマチェンコに、真の復活はあるのだろうか。

うつ病とも言われるが 戦線復帰を宣言したライアン・ガルシア、メイウェザーの秘蔵っ子ジャーボイテイ・デービス、4団体統一王者のテオフィモ・ロペス、そしてこのロマチェンコ。さらには一階級上ながら、ロペスと同じく4団体統一チャンピオンのジョシュ・テイラーの動向を気にする、実に忙しなく楽しい時間がライト級にやってきた。

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。