無敗同士の王者同士の統一戦
世界チャンピオン同士の統一戦は、序盤から激しい打ち合いになった。
サウスポーのテイラーとオーソドックスのラミレス、ともに178cmの身長(このクラスでも比較的長身と思う)とのことだが、ラミレスの方が1-2センチほど低いように見える。テクニシャンの印象が強いテイラーだがそのスタイルは常にアグレッシブ。今回も、あまり脚を使わず、パワーパンチを叩き込もうとする。対するラミレスも、ガードを固めながらも身体を振りながら距離を詰め、強いパンチを振るっていく。
試合が大きく動いたのは第6ラウンド。
テイラーの左フックがカウンターでラミレスの顎を綺麗に捉えて 初のダウンを奪う。
さらに第7ラウンドには クリンチぎわの左アッパーでテイラーが2度目のダウンをゲット!
これはKO決着か??と思わせたが、ラミレスが王者らしい粘りをみせ、最終ラウンドのゴングを聞くことに成功、上述のようにテイラーの判定勝ちとなった。
英国出身のテイラーは、史上6人目の4団体統一チャンピオンに。戦績は18戦18勝13KO無敗。
敗れたものの善戦したラミレス(2度目のダウンがなければ、引分けか勝利を得ていたかもしれないほどだった!)はこれが初黒星。27戦26勝17KO1敗となったが、闘志あふれるその戦いぶりは好印象を残した。再浮上してくるファイターだろうと思える。
テイラーが統一したスーパーライト級とは?
140ポンド≒63.5Kgをリミットとした階級であるスーパーライト級。かつての日本ではジュニアウェルター級とも呼ばれていたように、ライト級とウェルター級の間に入る階級だ。日本人ボクサーにとっては、やや重いクラスに入ると言えるだろう。
(現時点では、上=ヘビー級から数えて8番目に重い、ということは下=ミニマム級から数えて10番目に軽い階級、ということになる)
たいていのボクサーは成長期にプロ入りする。かつては階級を変えずに年齢とともに重くなる体重により厳しさを増す減量苦と闘いながらベルトを目指し、王座を獲得してからは同じ階級での防衛回数を重ねていくことが通常のボクシングのキャリアパスであったが、現在では 成長とともに大きくなる体格に合わせて階級を上げ、複数の階級での王座を目指す者が増えてきている。さらに体重別に分かれている階級もボクシング黎明期の7-8階級(オリジナルのボクシングの階級と言えるのは、フライ、バンタム、フェザー、ライト、ウェルター、ミドル、ヘビーの7つであり、ミドルとヘビーの体重差が大きすぎることを是正しようとライトヘビーが生まれて8階級となった)から、どんどん階級が細かくなり、現在では原則として17に分かれている。
さて、今回4団体を統一したテイラーだが、それぞれの団体からの指名試合や様々な要請に対していちいち応えていくことは非常に難しい。だからせっかく統一してもすぐにベルトを手放し王座を返上する選手が多いわけだが、テイラーの場合はどうだろうか。
1991年1月2日生まれのテイラーは2021年5月現在30歳。(ラミレスは1992年8月12日生まれ)ボクサーの選手寿命が長くなってきた(現在のチャンピオンクラスはほとんどが30代だし、ひとつ上の階級であるウェルター級でWBAのベルトを巻くパッキャオに至っては40歳を超えている)とはいえ、残り時間はそれほど長くない。スーパーライト級でやるべきことは全てやり尽くしたと思うし、ラミレスとの統一戦を超えるスーパーファイト(つまり金を稼げる大試合)を組めるチャンスはこの階級ではもう残されていないと思われる。
スーパーライト級というクラスを考えると、すぐ上のウェルター級へのステップアップが妥当かと思われるが、パッキャオとエロール・スペンスJr.の対戦が決まってしまった以上、スーパーファイトの相手としては、クロフォードか?ということになる。ウェルター級最強と目される老練なクロフォードとの戦いはパッキャオやスペンスよりもはるかに危険に思えるが、もしテイラーがウェルターに上げて1-2戦こなしてから戦うとすれば、試合成立は早くて2023年。その頃までクロフォードが現役王者でいたとして30代後半に差し掛かる(彼は1987年9月28日生まれ)。となれば3つ違いのテイラーからすれば、いますぐクロフォードと戦うよりは遥かに優位に試合を進められる可能性が出てくる。
クロフォードとしてもパッキャオ戦が流れてしまった以上、早めに客を呼び金を稼げる相手とのマッチメイクをしたいところだろう。となると、このジョシュ・テイラーを呼び込むことが1番面白いし可能性が高いのではないか?
いずれせよ、テイラーは今回の勝利によって階級最強を証明し、さらに大金を稼ぐに足る価値あるボクサーであると、世界に対して高らかに宣言したと言えるだろう。
小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。
ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。