銀座 髙橋洋服店
今回インタビューを受けていただいたのは、髙橋洋服店の社長であり4代目の高橋純氏と、純氏のご子息であり現在裁断士として店に立つ高橋翔氏。同店には他にスタッフが数名おり、すべて優れた技術を持つ職人である。同店に信頼を寄せる名士は数多い。
自己表現の時代を生き抜くために
スーツはもともと誂えるものであり、いつかは俺もテーラーで……という憧れの存在であった。しかし、高度経済成長で発展せんとする日本では、スーツの需要が急増。そのため、工場での大量生産により安価なスーツが量産され、いつしかスーツは「ビジネスパーソンの服」として認知されるようになる。
しかし、これまで右へ倣えの風潮が強かった日本社会も、いま変革のときを迎えようとしている。多様化する世の中で、自分自身を表現することの大切さ。当たり前にスーツを着るのではなく、自己表現のツールとして活用すること。
ただ、それをするのに、万人に向けて作られた既製品では力が足りない。そこで注目されているのが、その人本来の姿を表現する注文洋服・オーダースーツである。
ここでは東京・銀座で100年以上に渡り、注文紳士服専門店として店を構える髙橋洋服店の店主・高橋純氏、そして純氏のご子息であり5代目となる高橋翔氏に、“オーダースーツ”についてお話を伺った。
ビスポークテーラーで品格と自信を手に入れる
まず話を進める前に、みなさんは「オーダースーツ」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。
おそらく街中でアンケートを取ったら、多くの人が「オーダーをしたことがある」と答えるであろう、と翔氏。
「何を持って“オーダー”と呼ぶか、その定義が日本ではとても曖昧です。おそらく一般的に認知されているのは、その人の寸法を測って、すでにある型に当てはめていくパターンオーダーやイージーオーダーと呼ばれるもの。基本的には決まった形があって、その人に合わせて調整していくものです」
これもオーダーといえば間違いではないが、髙橋洋服店が行うのは上記のそれではない。言葉として表すならばBespoke(ビスポーク)。ビスポークとは注文洋服のことで、「bespoke=話を聞きながら」仕立てていくスタイルのことを言う。
対話によって作り上げる一着
ビスポークテーラーの仕事は他と何が違うのか? それはただサイズの合う服を作ることではない。その人がもっとも美しく見える洋服であり、その人となりを表現できる服を仕立てるところにある。
そのためにはお客さんとの対話(bespoke)が欠かせない。
もちろん採寸は細かく行う。その際、俯瞰でその人の姿勢や左右のバランスを見ることも忘れない。さらに、ボタンの数、ポケットの有無や深さ、ポケットの角度、ベルトの高さ、左右の肩の位置、ジャケットを羽織ったときのワイシャツの見え方、座ったときのシワの出方……など、人によって変わる好みや形、仕草をチェックする。
「胸囲が、股下が……といっても、胸回りが平たい人もいれば、丸い人だっている。手足の長さはもちろん、肘や膝の位置だって人それぞれ違います。そうした“体型補正”がオーダーの大前提なんです」と社長の純氏。さらにこう続ける。
「人前で話すときの服、座って仕事をするときの服、極端に言えばそれらによって僕らは服の作りを変えます。人間の皮膚と違って、布は基本的にストレッチではありませんので、立ち姿も座り姿も美しい服というのはできない。なので、お客様との対話のなかで、何を求めているかを伺い、そこに合わせてつくりあげるんです」
そうして完成した一着は、どこに出ても、誰が見ても恥ずかしくない洋服。本物を着ているのだという満足感は自信に変わり、その佇まいからは品格すら感じられるはずだ。
まず作るのであれば紺やチャコールグレーのものを
高橋洋服店では、ビジネススーツ以外にもジャケットやコートといった洋服を仕立てることができる。しかし、まず一着誂えたいのであれば、ビジネスシーンで汎用性の高い紺かチャコールグレーのスーツがオススメ。
「上記カラーのものが一着あれば、どんなシーンにも活用できます。まずはもっとも着ることの多いスーツを作っていただいてから、バリエーションを増やしていくのがオススメです」と純氏。
生地の厚さや肌触り、色の濃淡は人それぞれ好みがあるため、しっかりと自分の手で触り選ぶこと。長年愛用していけるのがオーダースーツの魅力。吟味に吟味を重ね、着ていて気持ちのいいものを選びたい。
男の洋服はファッションではなく、スタイルであれ
上の言葉、これは髙橋洋服店の洋服作りにおいて根幹をなしている言葉である。
「“人は見かけで判断するな”とは言ったものの、初対面での判断材料は見た目、とくに服装が大きな割合を占めます。そのとき、トップブランドの高価なスーツに身を包んだところで、あなたという人間が伝わるでしょうか。それよりも、その人のことを理解し、仕草や佇まいを美しく見せたいと一針一針職人が心を込めて仕立てた服をお召しになったたほうが、その人の人となりが現れるでしょう」
既製品の世界にはどうしても流行がつきまとう。いくらそのときに気に入った服があっても、2、3年もすれば飽きて着なくなる(風潮的にも着られなくなる)。
注文洋服は決して安くはないが、寸法直しをはじめとしたメンテナンスをすれば長年着用できるものだ。時代によって移り変わり消えてしまうファッションとは対極にあるものであり、いつの時代も変わらぬ“自分”を表現できるもの。「服を見せるのではなく、自分を見せる」。そのためのツールがオーダースーツなのだ。
何かを成そうとするならば、いまこそ自信を身にまとえ
世界各国のニュースを見ると、ニュースキャスターから要人のボディーガード、はたまたカメラマンまでスーツを着ている。スーツは世界で唯一、どこに出ても恥ずかしくない洋服。そんな服が用意されているのに、なぜそこにこだわらないのか。
「日本人は世界的に見ても、服装に気を使っていると思います。しかし、いざビジネスの服となると途端に臆病になる。年間200日以上を着て過ごすのに、そこにパワーを感じる人がとても少ないです。ただ、これまで日本が歩んできた道を考えると、スーツに対してどうこだわっていいかわからないというのが正直なところでしょう。なので、そこはぜひうちに任せていただきたい」と翔氏はきっぱり。
もちろん中身が伴うことが重要です、と前置きしたうえで翔氏はこう続ける。
「我々の仕事は、お客様が表舞台に立ったときに、恥ずかしくないようにすること。その場に自信を持って立つことができるようにお手伝いすることです。うちで誂える洋服は最低でも35万円と決して安い金額ではありません。けれど、それはその人の人生において絶対にマイナスにはならないと断言できます」
出世したい!偉くなりたい! 認めてもらいたい!という気持ちがあるのであれば、上司に、出会う人々に、世の中に自己主張しなければならない。そんなとき、万人に向けて作られた既製品であなたという人間を表現できるだろうか?
もし朝、袖を通す服に不満があるのなら、もし自分の印象に自信がないのなら、ぜひ髙橋洋服店を訪れてみてほしい。あなたにふさわしい、あなただけの一着がここで手に入るはずだ。
所在地 | 東京都中央区銀座4-3-9 タカハシ クイーンズハウス3F |
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TEL | 03-3561-0505 |
営業時間 | 11:00〜19:00(土曜〜18:00まで) |
定休日 | 日曜・祝日 |
公式サイト | http://www.ginza-takahashi.co.jp/ |