2019年9月4日、世界3大陸で同時にワールドプレミアされたピュアEV「タイカン」は、最高峰のスポーツカーを作るポルシェの新たな挑戦である。
画像: 中国・福州のタイカンのワールドプレミア会場。写真はタイカンターボS

中国・福州のタイカンのワールドプレミア会場。写真はタイカンターボS

ポルシェはどうして電気自動車に挑戦するのか

ポルシェから魅力的なスポーツカーがデビューした。いや魅力的という表現では弱いかもしれない、“衝撃的な”というのが一番相応しいだろう。それが自身初のピュア電気自動車(BEV=Battery Electric Vehicle)となる「タイカン」である。

画像: タイカンターボS(560kW/761ps)とタイカンターボ(500kW/680ps)が発表された。

タイカンターボS(560kW/761ps)とタイカンターボ(500kW/680ps)が発表された。

BEVというと、国産車ではコンパクトカーの日産リーフや三菱i MiEVがすぐに思い浮かぶかもしれない。輸入車では、テスラ モデルSやフォルクスワーゲンeゴルフ、BMW i3、SUVのジャガーIペイス、発表されたばかりのメルセデスEQCあたりだろうか。しかしタイカンは、そのどれにも似ていなかった。

エレクトリックスポーツカーという新しいジャンル

誰もが認めるスポーツカーブランドのポルシェのことだから、当然、退屈なBEVは作らない。タイカンも“エレクトリックスポーツカー”であると宣言されている。これまでカイエンやマカンといったSUVであっても“スポーツカーである”と謳い、それに相応しいパフォーマンスを見せてきた。歴史と伝統のあるスポーツカー「ポルシェ911」のノウハウを惜しみなく注ぎ込み、電気自動車でもそれをやってしまおうというわけだ。

これはポルシェにとって明らかに“挑戦”である。得意とする分野とはまったく異なる電気自動車の世界。それもポルシェ初のBEVとなるのだからその力の入れようは凄まじいものがあった。

そもそもポルシェは、つねに挑戦し続けている自動車メーカーである。1963年にデビューしたポルシェ911もそうだ。

今でも珍しいフロントではなくリアへ搭載したエンジン、直列でもV型でもない水平対向エンジン、そして“実用的なスポーツカー”という相反する要素へもこだわり続け、55年以上にも渡り作り続けている。これほど挑戦的なメーカーはない。また、少し前を振り返れば2002年にSUV市場へ参入したカイエンも大きな挑戦であったと言えるだろう。そして今回、彼らが挑戦するのは、ピュアEV、つまり電気自動車の世界である。

自身初のBEVを世界3大陸同時にワールドプレミアした

BEV市場にタイカンで参入したポルシェ。そのワールドプレミアは、9月4日に世界3大陸で同時に行われた。ちなみにその場所は、中国の福州、欧州はドイツ ベルリン、そして北米はカナダのナイアガラの滝である。

画像: 中国は、福建省 福州市から約100km離れたピンタンにある風力発電施設を背景に初公開された。

中国は、福建省 福州市から約100km離れたピンタンにある風力発電施設を背景に初公開された。

どうしてこの3カ所を世界初公開の場所に選んだのか。ワールドプレミアイベントに先立ちポルシェの研究開発部門のトップであるミハエル・スタイナー氏に聞くと「BEVは再生可能なエネルギーで走らせるのが相応しい。それで風力発電のある福州、太陽光発電のあるベルリン、そして水力発電のあるナイアガラの滝という場を選んだのです」と答えた。納得である。

画像: 欧州は、ドイツ ベルリン近郊のノイハルデンベルクのソーラーファームで公開された。

欧州は、ドイツ ベルリン近郊のノイハルデンベルクのソーラーファームで公開された。

私は、このタイカンのワールドデビューに中国で立ち会った。またそれに先立ち、その全貌を知るため「タイカンテクニカルワークショップ」も取材している。そこで感じられたことは、“これは正真正銘のスポーツカーである”ということだ。

画像: 北米では、カナダのオンタリオ州と米国のニューヨーク州の国境にあるナイアガラの滝で初公開。

北米では、カナダのオンタリオ州と米国のニューヨーク州の国境にあるナイアガラの滝で初公開。

軽量、つまり車両重量が軽いことはスポーツカーにとってはとても重要である。しかし、大量のバッテリーを積まなければならないBEVは、車両重量が重くなるためスポーツカーとしてはとても不利である。

画像: 空気の流れも計算尽くされている。Cd値は驚異的な0.22〜0.25。アウタードアハンドルまでボディと同一面として空気抵抗を削減している。

空気の流れも計算尽くされている。Cd値は驚異的な0.22〜0.25。アウタードアハンドルまでボディと同一面として空気抵抗を削減している。

その不利を挽回するため、タイカンには実にさまざまな技術やノウハウが採用されている。その詳細をワークショップで知ることになったが、その徹底ぶりには驚かされた。

ボディを構成する素材のひとつひとつ、さらにドアハンドルひとつまで徹底的に考え尽くされた空力によりCd値は驚異的な0.22を実現している。

また電圧は、普通のBEVが400Vを採用するところ、タイカンは800Vのシステム電圧を備えている。これは市販車初。これにより高出力充電ネットワークの直流(DC)を使えば約100kmを走るのに必要なエネルギーを約5分で充電できるのだという。これは燃料を給油するよりも早いかそれ同等の時間だと言えるだろう。

このワークショップではテストコースの同乗走行も許された。1回目はタイカンターボのリアシート、そして特別におかわりした2回目がタイカンターボSの助手席でその驚異的なパフォーマンスを味わった。

画像: 8月に中国 上海で開催されたタイカンワークショップでは同乗走行ができた。

8月に中国 上海で開催されたタイカンワークショップでは同乗走行ができた。

とくにフル加速するシーンでは背中と頭がシートに押しつけられ、あっと言う間に177km/hに達していた。なんだこのもの凄い加速力は! 今までに経験したことのないような加速Gであった。それもそのはず、タイカンターボSは、ゼロ発進から2.8秒で100km/hに達する。ちなみに最高速は260km/hである。

タイカンの挑戦といえば、ニュルブルクリンク・ノルドシュライフェのタイムアタックも行っている。そこで7分42秒という記録を打ち立てた。もちろん、4ドアのBEV最速だ。

さて、そんなタイカンがついに市販される。日本へも2020年には上陸するはずだ。スポーツカーとして認められるのか、ポルシェらしいパフォーマンスはあるのか、そして世界で受け入れられるのか、課題はクリアされたのか。

その結果がわかるのはまだ少し先になるが、これからもしっかりとそのあたりを見極めたい。

さてポルシェだが、今後もBEVを市販予定である。サルーンの「タイカン」の後にはワゴンタイプの「タイカンスポーツツーリスモ」も市販すると公表している。ポルシェの挑戦はまだまだ続くのである。

画像: 「ポルシェの挑戦」衝撃的な電気自動車がスポーツカーの概念を塗り替える

千葉知充 | Tomomitsu Chiba

創刊1955年の日本で一番歴史のある自動車専門誌「Motor Magazine(モーターマガジン)」の編集長。いままで乗り継いできたクルマは国産、輸入車、中古車、新車を含め20台以上。趣味は日本中の競馬場、世界中のカジノ巡り。

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