道化師(ピエロ)のメイクでは隠しきれない狂気でゴッサムシティを恐怖に陥れる犯罪王が、いかにして誕生したのかを描いた異色作『ジョーカー』が、2019年10月4日に日本でも公開される。主演はホアキン・フェニックス。
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バットマンと表裏一体のようでありながら決して相容れない存在のジョーカー
素顔をピエロの化粧で隠しているが、彼はなんの超常的能力も持たないただの人間。
その意味ではバットマンも同じだが、ブルース・ウェイン(バットマンの正体である大富豪)が金の力にモノを言わせて作り上げた数々のハイテクグッズで武装しているのに対し、ジョーカーは乾いた笑顔に秘められた狂気と破壊衝動でヒーローの前に立ちふさがる。
ゴッサムシティに巣食う犯罪者たちを無慈悲な制裁で罰するため、彼らが恐怖するシンボルとして蝙蝠の姿を選んだのがバットマンだとすれば、本来であれば人々を笑わせる戯け者(ピエロ)の姿を選んだのがジョーカー。
2人は絶対正義と絶対悪という、一枚のカードの表裏のような存在であり、非常に似た者同士ながら真逆の思考を持つ、決して相容れない存在なのである。
ダークヒーローではなく正真正銘のヴィランの誕生をどのように"正当化"するか?
本作におけるジョーカーは、これまでのバットマン映画に登場したジョーカー(ジャック・ニコルソンやヒース・レジャー、ジャレッド・レトなど)の描き方とは違い、普通の、いやむしろ善人と言っていい人物がさまざまな社会からの冷たい仕打ちを受けた結果、それまでの人生とは真逆な、殺人や強奪を無感情に行える悪の存在へと変貌する様を描いている。
演じるのはホアキン・フェニックス。
名作『スタンド・バイ・ミー』などで注目を浴びたリヴァー・フェニックスの実弟という評価を超え、多くの映画作品でその演技力と存在感を実証してきた名優だ。
その彼にして本作の主人公ジョーカー役は過去最高の当たり役との前評判が上がっており、いやが応にも期待が高まる。
これまではヒーローに対する悪役(ヒール)としての描き方しかされてこなかったダークなヴィランを、主人公に据えた映画づくりは、スパイダーマンに対抗する有名ヴィランである『ヴェノム』の成功を見てもわかるように、非常に挑戦的なアプローチのようで、案外今の映画界においては割とヒットの方程式に即した手法のようでもある。
とはいえ、ジョーカーというヴィラン中のヴィランを、光と陰のように正対するバットマンと切り離して描くのは、それなりにリスクも高かった挑戦であると思う。日本国内でどの程度受け入れられるかわからないが、とにかく僕は観る。
『ヴェノム』は食人もする邪悪な存在でありながら結果的には正義に属する正真正銘のダークヒーローであったが、『ジョーカー』はあくまで完全な悪の権化(ダークヒーローでなく正真正銘のヴィラン)。
観客にどのようにジョーカーの存在を許させるか、納得させるか。その表現の冴えを楽しみにしているのだ。
小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
年間100本以上の映画作品を鑑賞する映画好き。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。
ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。