若干22歳ながらIBFのタイトルホルダーとなったロペスはこれで15勝12KO無敗。史上最高傑作と呼ばれるスーパースター ワシル・ロマチェンコとの対戦の可能性も出てきた。
新星ロペスの“番狂わせ”はロマチェンコにとって僥倖か
群雄割拠のウェルター級をはじめとして、スーパースターがひしめく他の階級に比べて、これまでのライト級はロマチェンコの一強。彼の牙城を崩せそうな対抗馬の存在はなかなか現れそうにない。
若い才能の台頭はあるが、自分を倒せそうなほどのスターはまだ見えない。つまり、それはロマチェンコからするとビッグマネーを稼げるスーパーファイトの実現に相当苦慮するということになる。
ロマチェンコには現時点で彼に対抗しうるような存在がいない。それだけ彼が傑出していると言えるが、同時に彼の限界を引き出せる相手がいないということは、大金を稼ぐメガファイトのセッティングが難しいということでもある。
そんな中で、ロマチェンコからすると無理やり自分のライバルを仕立て上げなくてはならず、恐らくは言いたくもないリップサービスで他のボクサーを持ち上げなければならない。
本来ならば、ロペスの前に立ち塞がった現役王者コミーは(実際強打とバランスの良さを兼ね備えた良いボクサーであり)ロペスの挑戦を退けて、統一戦へと駒を進めてくれるはずだった。実際、戦前の予想ではロマチェンコはコミーの勝利と話していたのである。
ところが蓋を開けると、ロペスが2Rに右の強打をコミーの顔面に叩き込みダウンを奪い、再開されるや否や猛烈なラッシュを浴びせ、そのままレフェリーストップにつなげる衝撃の結末となったのだ。
ロペスは派手な言動とリングパフォーマンスで人気はあるが、反面行儀悪さに大人からの反感を買ってきた。
強いことは強いが、それほど強い相手と戦ってきたわけでもないし、作られたホープと見られることも多かった。だから彼は完成されたボクサーとは見られることなく、ロマチェンコの相手を務めるにはまだまだ早い、というのがこれまでの評価だったのである。
しかし、今回の勝利で、彼は4大団体の一つ、IBFの王座につき、システム的な格の上ではロマチェンコと並んだ。ロマチェンコ陣営のストーリーとすると、体格的にライト級より上のクラスへの進出はあり得なさそうなだけに、残る名誉的行為は4大団体の統一王者になることが重要だった。つまり現時点でWBA、WBC、WBOのタイトルホルダーである彼は、残るIBFの王座を獲得することが自身の価値をさらに上げるためのマスト条件になっていたのである。
となると、ロペス(を始めとする若手ホープたち)の成長が早いか、自らの加齢による衰え(30代でピークを迎えることが多くなった現代のボクサー寿命とはいえ、2020年2月に32歳となるロマチェンコからすれば残された時間はそれほど長いわけでもない)が早いかを心配する必要があったロマチェンコにしてみれば、コミーの敗北には当てが外れただろうが、ロペスと戦う意義は生まれたと言っていいのだ。
地力の高さを活かせなかったコミー
新王者となったロペスは、ロマチェンコとの対戦にかなり前向きだし、相当の自信を見せる。
コミーとの試合では、身長・リーチの長さで上回るコミーのジャブにかなり手を焼き、アウトボックスされる恐れもあったし、実際1ラウンドでの攻防でロペスを圧倒したコミーは、早いラウンドでロペスを倒せると確信したようにもみえた。
ある意味、コミーはロマチェンコ戦への弾みをつけるために派手な勝ち方を欲していたこともあるだろうが、ロペスをなめていたと言えるかもしれない。リーチの長さと巧みなジャブによってポイントを稼いだ1ラウンドの優位を活かそうとするのではなく、2ラウンドに入ると強打を当てようと比較的距離を詰めてきていたのだ。
しかしそれは、ロペスの距離でもあった。劣勢にめげず、勇気とガッツを見せたロペスが、思い切った右を振り出しコミーの顔面を強かにとらえることに成功するのである。
実はその右に合わせてのクロスカウンターを狙ったコミーだったが、思い切り振り込んできたロペスのパンチはコミーの想像を超えて速かった。コミーのカウンターは当たらず、ロペスの右がコミーを直撃し、カウンターに対するカウンターとして、凄まじい威力を発揮することになった。
意地で立ち上がったコミーではあったがダメージは深く、勢い込んで突っ込んでくるロペスのラッシュに耐えきれず、そのままレフェリーストップを喰らい、TKO負けの憂き目に遭うのである。
無謀なまでの若さはロマチェンコに通用するか
ロペスのボクシングは、正直それほどうまくはないと思う。思い切りの良い攻撃は高く評価できるがまだ粗いし、ディフェンスはかなり甘い。コミーのジャブをだいぶ喰らっていたから、ロマチェンコの多彩なリードパンチに完封される可能性も高い。実力的には、まだまだこれからの選手なのだろうと思う。
しかし、今回のコミー戦で彼はその若さゆえの粗さが荒々しさを作っており、付け入る隙の少ないロマチェンコの技巧に対抗できる可能性を示したと言える。
ライト級に適した体力を身につけつつあるロマチェンコだが、テクニックこそ卓越しているもののライト級においてはそのパワーは決して十分とはいえないし、いいパンチが当たればダウンするかもしれない脆さもなくはない。
テクニックで対抗するのではなく、未完成ながら一発当てようとする思い切りの良さで勝負を仕掛ける方が、むしろ攻略の可能性があるかもしれないのだ。
コミー戦で見せた、荒削りな思い切りの良さ。それがロペスであると考えれば、2020年にロマチェンコ戦が実現する可能性はだいぶ上がってきた。
そして大事なことは、ロマチェンコ自身がそれを望むであろうことなのだ。
小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。
ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。