実在した全米トラック運転手組合"チームスターズ"の組合長 ジミー・ホッファの失踪事件に関わったとされるアイルランド系の男 フランク・シーランの自伝「I heard You paint Houses」を元に、マーティン・スコセッシ監督が映画化。主演はロバート・デ・ニーロとアル・パチーノという豪華な顔ぶれの本作は3時間29分という長尺作品となった。
画像: The Irishman | Official Trailer | Netflix youtu.be

The Irishman | Official Trailer | Netflix

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ケネディ政権時代に権勢を誇ったジミー・ホッファの末路とその背景を描いたスコセッシ作品

ジミー・ホッファは、1950年代から1975年まで全米トラック組合“チームスター”の組合長あるいは実質的トップとして君臨した実在の人物。マフィアとの深いつながりも噂された、いわば反社会的存在だった。

晩年は蜜月のはずだったマフィアとの対立状態となり、やがて謎の失踪を遂げるのだが、本作は、彼の失踪はマフィアによる暗殺であり、その実行犯とされるアイルランド系アメリカ人 フランク・シーランの告白本を元に制作されている。(注)

(注)ホッファの失踪の背景については諸説あり、シーランの告白が真実かどうかは不明

ホッファとマフィアは、JFKの父親であり禁酒法時代に密造酒で資産を成したとされるジョセフ・ケネディとの繋がりから、ケネディ政権誕生に大きく寄与したとされるが、政権成立後のJFKとその弟で司法長官となったロバート・ケネディのマフィア撲滅キャンペーンのターゲットとされ、実際ホッファは投獄されて5年間も刑務所暮らしを強いられる。
(ジョンとロバートのケネディ兄弟は共に暗殺されてしまうのだが、その裏で糸を引いていたのがマフィアであると本作は断じている。もちろん真相はわからない)

主人公のフランクは、フィラデルフィアでもともと食肉運搬トラックの運転手をしていたが、その腕っぷしと口の固さを買われてイタリアマフィアの殺し屋として荒仕事を任されるようになる。フランク自身はアイルランド系だったが、第二次世界大戦時にイタリアに駐留していたこともあってイタリア語に堪能だった。それが功を奏してイタリアマフィアの中でも重用されていき、やがてホッファにも紹介されて親交を深めていく。

フランクは、ホッファと家族ぐるみの付き合いを通じて彼への友情と忠誠心を育むが、やがてホッファがマフィアと対立していくことで、マフィアの指示を受けてホッファ殺害を実行するのである。

友人の命と、自分と自分の家族の安全を秤にかけたフランクの晩年の独白を元に、裏社会で生きた男たちの血なまぐさい日々を、生々しく描いた現代的なギャング映画だ。

新しい革袋に入れられた極上の熟成ワインのような作品

本作の主人公フランク・シーランを演じるのは名優ロバート・デニーロ。老人ホームで近づいてくる自らの死を待つ男の独白から始まる本作は、たびたび時間軸が入れ替わり、デニーロの老いた姿と30-40代の“若い”姿が交錯するが、最新のCGとメイク技術によって違和感なく物語に没頭できる。
(関係ないが、数年後には、生身のスターは必要なくなるかもしれない、データさえあれば 本人が演じるべき理由はないかもしれないな)

その意味で、本作は かつてと変わらぬスコセッシ監督流のリアリティあふれる演出を感じるものの、最新テクノロジーで支えられることで実現された 新しい映画なのである。

(とはいえ、悪い意味でスコセッシ作品らしいなぁとちょっと辟易するのはその長さ。この時代、3時間29分という長尺はいかにも長すぎる。現代の映画は2時間以内に抑えるべきというのが僕の持論だ)

原題「I heard You paint Houses」が意味するのは?

Netflixオリジナル作品である本作の原題は「I heard You paint Houses」。直訳すれば「お前が家のペンキを塗っていると聞いたぞ」という意味だが、ペンキを塗ると言うのは、人を殺すという(厳密に言えば、撃ち殺して血飛沫で家の壁を汚すという)暗喩である。

つまりペンキ=被害者の血液であり、だから色は赤一色。
その名のとおり、フランクは室内でホッファの後頭部を撃ち抜く。もちろん壁には真っ赤な血糊がべったりつく。
本作は『アイリッシュマン(アイルランド系の男)』という タイトルとなっているが、原作となったフランクの告白本自体はそんな禍々しいタイトルが付けられているのである。

画像: 『アイリッシュマン』...原題「I Heard You Paint Houses」が怖すぎるギャング映画の傑作

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。

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