ロシア発・世界唯一のサイドカー専業メーカー「ウラル」。その魅力を広めるべくウラルジャパンCEOとして活躍するブラド氏は、理想を実現するために日々努力を欠かさない。その成功の影には、ブラド氏が生涯を通して嗜む「武術」があった。Vol.3では沖縄を発祥の地とする「空手」について解説いただいた。

空手の起源「手(ティー)」

みなさん、ご無沙汰しております。さて、3回目となる今回は沖縄の伝統的な空手と古武道についてご紹介していきたいと思います。

「空手」という言葉を聞いてみなさんは何を連想するでしょうか? 自由組手、きれいなハイキック、顔に着ける防具、大規模な大会などでしょうか。

元々の空手は今とまったく違い、戦いの中で生き残るための実戦的な武術であり、スポーツ要素は微塵もありませんでした。

空手の起源は沖縄にあったと言われてます。沖縄が琉球王国と呼ばれた数百年前の話、日本本土では柔術や剣術など色々な武術が盛んになっていましたが、琉球王国は中国との繋がりが強く、武道に対しても多大な影響を受けてきました。もちろんそこには日本の薩摩藩示現流といった剣術も取り入れられています。

画像: 空手の起源「手(ティー)」

「影響を受ける」と書きましたが、受けるということは元となる武道があったということです。それが、琉球王国固有の武道である「手(ティー)」です。

ティーからカラテへ

琉球王国で空手(当時は『ティー』)が広く発展した理由の一つは、16世紀と17世紀に二度にわたって実施された禁武政策があります。

もともとティーは密かに琉球士族が稽古していましたが明治12年(1879年)、琉球処分により琉球王国が崩壊すると、ティーも失伝の危機を迎えました。このような危機的状況から沖縄の伝統武術を救うために、糸洲安恒先生をはじめ、琉球の達人達はティーを学校などの教育に採用することにしたのです。そこで生徒たちが学習しやすいように急所攻撃や関節折りなど危険な技は封印されました。

“カラテ”という呼び方もその時代に作られたそうです。それから本土にも伝わり、20世紀中には全世界に普及。人気の武道となっていきました。

しかし、現代の競技空手はいい意味でも悪い意味でも本来の琉球武術とは異なります。ここからは伝統沖縄空手の特徴についてお話させてください。

伝統沖縄空手

連載Vol.2で紹介したフィリピン武術のカリと同じく、沖縄の伝統空手は大会で勝つための競技ではなく、命を守るための実戦的な武術です。

基本的に素手で戦う技術ですが、拳だけではなく、開いた手、肘、膝、蹴りなども使います。しかし、足の技は基本的に帯より下にしか使いません。現在空手の代表的な技として知られているハイキックなどは元々はありませんでした。

関節技、投げ技なども用います。あと、即興武器を操る練習も行います。目や喉を刺したり、金的、膝を蹴ったりする技が入っていて極めて残酷です。当然ながら、このような危険技を自由組手に出すことはできません。

実は組手より、型の稽古のほうが重要だと考えられています。型には流派のすべての基本が入っています。手と脚の使い方、呼吸方法、足の運び方、軸移動の方法、筋力鍛錬など、全部型で練習できるんです。

勘違いしがちなのですが、型というのは戦い方ではありません。型とは“戦いで使える動きを練習する方法”です。僕の師匠、中村正美師範が仰る通り「型を練習する」のではなく、『型で練習する』ということが大事なのです。言い方を少し変えるだけで、意味は大きく変わってきますね。

とても簡単に表現するとすれば、型はアルファベットみたいなものです。まず、文字の書き方を覚えてから、それを組み合わせて言葉を作る。そして、その言葉を組み合わせて今度は文章を作ります。文字の書き方がそもそも分からなければ、言葉や文章をつくることはできません

型も一緒です。綺麗な動きを見せるために練習するのではなく、型で基本的な動きや呼吸方法を習って、実戦のときに状況に合わせて戦うための練習です。同じ道場で同じ型を習ったとしても、人によりその使い方・流れはまったく違います。

私が通っている道場、拳志會関西本部では沖縄剛柔流空手道だけではなく、沖縄古武道も稽古されています。沖縄古武道(琉球古武道、琉球古武術、沖縄古武術ともいう)というのは沖縄の伝統的な武器術です。

画像: 伝統沖縄空手

薩摩服属後も、琉球士族は徒手格闘だけではなく、鉄砲を除いて剣術、槍術、棒術、弓術、釵術(さいじゅつ)など、いろいろな武器を扱う武術の稽古をしていました。禁武政策後には特にヌンチャクやトンファーなどの非刀剣類の武器術が盛んになります。

何を利用してでも命を守ること。日々の鍛錬は、いざというときにあなたを救ってくれるはずです

もちろん、現在世界ではヌンチャクなどの古代武器で戦うことは映画でしか見られないですが、実は武器を扱うことに慣れてくると、いざという時はなんでも武器として使うことができるようになります。ただのベルトでもヌンチャク術稽古で習った動きを使えば、とても効率的な武器に早変わりするんです。

武術の稽古は身体だけではなく、頭も十分働かせます。

何回も何回も同じ動きをしていて、細かいところに注意をすると、集中力の訓練にもなります。道場の激しい稽古で身体、心、マインドを鍛えて、頭の回転率、自信、ストレス耐性力をあげたら、日常生活にも役に立つのではないでしょうか。

正直なところ、もし私が武術をやっていなかったら、ウラルサイドカーのビジネスもできていなかったと思います。1台目を売る前にストレスで死んでしまったに違いないです(笑)。

空手の師匠をご紹介

さて、私の空手師匠を紹介させてください。

前回イントロデュースした中村愛美師範はフィリピン武術の達人だけではなく、剛柔流空手道七段教士です。

中村愛美師範。フィリピン武術カリから空手道までに精通する凄腕です!

旦那さんは剛柔流空手道九段範士・正琉会会長の中村正美師範です。幼少よりさまざまな武術を学んだあと、海外において政府高官のボディーガードを務めていました。軍隊・警察学校・刑務官養成所での格闘術教官を約15年間務めてきました。正直にいって、私が今まで会った人の中で一番強い人に違いないです。

沖縄の伝統的な空手道と古武道がもっと世界に広まってほしい。現在、盛んになっている競技空手は素晴らしいスポーツだと思いますが、その起源である沖縄空手にもぜひ注目していただきたいです。

画像2: 琉球王国の武術「ティー」。Karate. The ancient fighting art of Okinawa【Vol.3】

ブラド|Volkhin Vladislav
ロシアのウラジオストク市生まれ、2012年から日本滞在。Ural Motorcyclesの日本法人・ウラルジャパン(株)の代表者。沖縄&フィリピンの武術愛好家でもあり、俳優、フリーランスモデルも務める。小さい頃から好きなバイクと武術を本業にしている関西弁混じりの日本語が喋れるロシア人。
Instagram:vlad_volkh

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