27年前に葬ったはずの怪物が蘇ったとき、大人になった少年少女たちが再び集結する---。
人を殺すことより怖がらせることに愉悦を覚えてしまう、間抜けなモンスターの魅力
前編のレビューはこちらから
本作は、架空の田舎町デリーに27年周期で起きる怪奇事件を引き起こしている正体に気づいたいじめられっ子の少年少女たちが、“IT/それ”を倒すために強い恐怖に怯えながらも闘いを挑む、というストーリーであり、ホラーの体裁を取りつつも、『スタンド・バイ・ミー』に似た子供たちが絆を深めていく様を描いた作品だ。
主人公ビルを中心とした少年少女たちと“IT”の最初の邂逅と闘いを描いたのが前編。後編では大人になったビルたちと“IT”の最後の戦いが描かれている。
“IT/それ”と呼ばれる怪物は、基本的には常にピエロの姿をしており、ペニーワイズという名を持っている。ピエロだけにおどけた調子で近づいてくるが、相手の心の傷や不安を抉るような幻覚を見せて恐怖を増幅させることが大好きなモンスターである。
逆にいうと、凄まじい超常的な力を持っていながらも、相手を怖がらせて楽しむことをなによりも優先してしまう悪癖が、彼の最大の弱点であり、それがゆえに少年たちに足を掬われてしまう。ホラーとしてみると、主人公たちをいつでも殺せるはずなのに、なぜかまどろっかしいというか、間抜けというか、脅かすばかりで何がしたいのかよくわからないペニーワイズだが、もっと相手の恐怖を引き出したいという欲望についつい負けてしまう、いたずら好きな怪物であると思えば、そこが彼の、そしてこの映画の魅力であると思えるだろう。
もう一つ付け加えると、このペニーワイズ、主人公の少年少女たちはすぐに殺そうとせず念入りに驚かせてくるのに、他の犠牲者については容赦なく殺してしまう。そこにどういう区別や違いがあるのかは全く説明がなく、気まぐれとしか言いようがない。(物語上の矛盾というか、破綻箇所だと思うのだが、スティーブン・キング作品にはこの手の不自然な点はよくあると僕は思っている)
だから、結果的にあまり怖くない、ということになるのだが、それでもこのペニーワイズのスタイリッシュな怪物ぶりは魅惑的で(ピエロ姿のヴィランということではバットマンシリーズのジョーカーと被るが、どちらも飛びきりの外道であり悪意と邪気にまみれた存在でありながら、なぜか憎みきれない魅力を否定できない)、それがゆえに本作を矛盾と欠点だらけの作品ながらヒット作に押し上げているのだと思える。
正直それほど怖くないからこそ面白い、新感覚ホラー
僕は基本的にホラー映画は観ないのだが、『IT』 は好きだ。1990年に公開されたオリジナル版も観ているし、本シリーズも前編後編共に観ている。
なぜかというと、ホラー映画にしてはそれほど残虐でも怖くもないからなのだが、上述のように、ピエロ(道化師)のヴィジュアルとおどけた所作を持つことで、ペニーワイズがジョーカーにも共通する悪虐ながら妙に親しみやすい雰囲気を持っているためだとは、上述したとおりだ。
なんとなく温かみ(どちらかというと生温さ)を感じさせながら、一皮剥くと凍える氷柱の冷たさを内心に抱くペニーワイズは、ホラー史上 エルム街の悪夢のフレディや13日の金曜日シリーズのジェイソンと並ぶ名キャラであり、さらに言えば相手を怖がらせて喜ぶ(そこで得られる恐怖心を好物にしている)という、一種の性癖と悪意に満ちたユーモアによってさらに特異な境地にいることを許されている。
繰り返しになるが、敢えて感想を言えば、本作はストーリー的には特に面白くない。ホラーとしても怖くないし、グロくもない。
ただただ、ペニーワイズの不可思議な魅力を楽しむことが、本作の最大の見どころであり、何をおいても観るべきポイントになっているのだ。
そして、前にも書いたが、ビル・スカルスガルド演じるペニーワイズの妖しい瞳に酔いしれることが、本作の正しい見方であると主張しておこう。
非常にサディスティックであり、変態であるが笑、本作でペニー・ワイズを演じるビル・スカルスガルドの若く鮮やかな笑顔は実に鮮やかで乾いていて、瞳の美しさとあいまって、言い方は変だがとてもとても魅力的かつ魅惑的で、子供達でなくても引き込まれる。
ちなみに、カメオ出演が大好きなスティーブン・キング、本作でも達者な演技を見せてくれているので、どこで彼が登場するかを楽しみに待つのも本作を愉しむポイント、だろう。
小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。
ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。