旧作品から十数年未来に時代を移して、新たに結成される公安9課(攻殻機動隊)の活躍を描く新シリーズ
日本が誇るサイバーパンク「攻殻機動隊」が3D CGアニメ化されてNetflixオリジナル作品として復活。
人体のサイボーグ化を可能にするほど科学技術が進化した未来の日本。インターネット(的なネットワーク)にダイレクトに接続できるように脳を改造(電脳化、という)することが一般的になり、手足を機械化(義体、という)する者も数多く存在するようになる。
そんな未来社会を背景に、テロリストや政治犯らを取り締まる警察組織"公安9課"(通称:攻殻機動隊)の活躍を描いた本作は世界的にヒットし、多くのSF作品に影響を与えた。
士郎正宗原作のコミックや、有名アニメ映画監督の押井守による映画作品の時代設定は2030年前後であったが、本作はそれより少し未来の2045年となっている。公安9課は解体され、草薙素子やバトー、イシカワといったメンバーは傭兵となって世界中で起きる紛争に首を突っ込んでいるが、やがて改めて彼らが政府に招集され、公安9課が再編される、というのが、新シリーズ(シーズン1)のあらすじになっている。
生命とは何か、魂とは何かを問う、哲学的なメッセージも有する作品
「攻殻機動隊」は士郎正宗原作のコミック作品を原作としており、1980年代末に考案されたものだ。当時は2020年の現代ほどにインターネットが普及するとは想像しづらい社会であったが、前述の通り、人間が電脳化されることで場所を問わず、スマホのようなデバイスを使う必要もなく、インターネットを自在に使いこなすことができるようになっている(原作においては当然インターネットという言葉はなく、単にネット、と称されるが、全世界を覆うように広がったサイバーネットワークには、ありとあらゆる情報がデータ化されており、本作の登場人物たちは電脳によってこのネットワークに好きなようにアクセスできる)。
そんなサイバーライクな世界観を先取りしたことで、「攻殻機動隊」は世界中のSFファンから絶大の支持を集めているのである。
さらに、部分的ではなく、全身を義体化した(=脳蓋以外は全て機械化した)100%ピュアなサイボーグである草薙素子を主人公にしたうえで、自分が実はサイボーグではなくアンドロイド(≒人間の姿を持つロボット)なのではないか、という疑念を与えることで、生命とは何か、魂とは何か?という非常に哲学的な概念(同時に医学的・生命科学的概念、とも言える)をテーマとして抱えるに至っていることで、コミックやアニメの枠を超えて全てのSF的創作物における重要なポジションを得ている。
サイボーグなら、まず生命体としての人間が存在していて、そのボディを義体化したことで、ほぼフルメカの身体になっても、自分は生命体であるという意識を持ち続けることができるし、周囲の声も同様であろう。反対に、アンドロイドが徐々にデータが蓄積されて、その結果感情のような意識≒自我が生まれて、自分を生命体であると考え始めたとしても、周囲はそれを認めまい。つまり「攻殻機動隊」においては記憶=データが高度化・多層化したことで自我が生まれたとしては、それは魂とは言い難いし、自我の有無は生命体の是非ではなく、あくまで魂の有無が決め手となる、という判断になっている、と言える。
ちなみに「攻殻機動隊」ではこの魂をゴーストと呼称しており、草薙素子のぬぐいきれない煩悩は、自分が持つ自我は後天的なものであって、真の魂=ゴーストではないのではないか?という不信である。
映画『チャッピー』では、アンドロイドであるチャッピーに搭載されたAI(OS)に自我が芽生えていくさまを描く。つまりアンドロイドが生命体として意識を持つ。チャッピーは不良品であるボディを捨てて、新たなボディに自分のAIを転移させるのだが、元ボディはこの結果動かなくなる≒死ぬ。つまり、チャッピーが行ったことはAIとそのデータの複製(コピー)ではなく、移転である。コピーができないことによって、そのAIは唯一無二であることを証明している。つまりチャッピーは魂を持つ生命体である、というのが本作でのテーマになっていると思う。
ちなみに押井守監督の『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年公開)に登場するAI"人形使い"は、チャッピー同様に、後天的に自我を持ち、自身を生命体であると主張する。
この人形使いの登場によって草薙素子の迷い(自分が持つ自我は先天的なものではなく後天的なものではないか?自分はサイボーグではなくてアンドロイドなのではないか?)は、"どっちでもいい"、"後天的に生まれた自我もゴーストである"という悟りにつながっていく。
フル3D CGの功罪
本作は、上述のように、2045年を舞台として、傭兵として働く素子たちが再び公安9課として再結成される様子を描く。同時に、原作を生んだ1980年代後半とは違って、インターネットとの常時接続や、広大なデータベースとしてのネットの価値と意義、もしくは利用方法が、1980年代当時の単なる想像の産物とは違って、既に部分的には実現もされていることで現実味を帯びてきた(2019−2020年における)知識や常識をベースとして作られていることが特色と言えるだろう。
本作はこれまでの作品とは違って(2Dアニメでもなく、実写でもない)3DCGで制作されている、ある意味最先端のアニメーションだ。未来の預言書とも言える本作を新たに表現するのに3DCGはぴったりの手法であるとは思うのだが、僕個人の感想でいうと、ゲームのキャラクターを見ているようで、違和感は拭えず、正直に告白するとふつうに2Dアニメーションで作ってくれた方が没入しやすく思った。
ただ、ストーリーそのものや、作中に現れる"現代的な表現"(例えば、屋台で商売する中年女性は、恐らく格安の電脳を使っているのだろう、しょっちゅう現れる広告表示をしきりにウザがるような仕草をするし、セキュリティを考えずに自分の視点をすべて一般公開してしまっているかのような情弱ぶり)など、作り手の強いこだわり、"攻殻機動隊愛"を感じる。
そうした意味では、3DCGに慣れている(RPGなどをやり慣れている)人であれば、僕のような違和感を感じずに、本作を素直に楽しみ、深く入り込むことができることだろうと思う。
小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。
ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。