元々ケヴィン・スペイシーが主役のフランク・アンダーウッド議員を演じていたが、シリーズの途中で男性に対するセクハラスキャンダルによって降板、フランクの妻クレアをメインキャストとする事で最終シーズン(シーズン6)を終えた、いわくつきの作品。
ストーリー
本作はNetflixで配信された超硬派、超本格的な政治サスペンスドラマだ。
主人公のやり手政治家フランク・アンダーウッドは米国民主党所属の下院議員を務めていたが、新大統領の擁立することによって国務長官のポストを狙っていたものの、大統領チームに裏切られ、ホワイトハウス入りを逃す。
そのことを恨みに思ったフランクは復讐を誓うと同時に、誰かの尻馬に乗って出世するのではなく、自らの権謀術数によって野心を満たす決意をする。
彼は、同じく野心家であり美貌と才覚を兼ね備えた妻クレアを同志として、昏い野望の実現を目指して 行動を開始するのであった。
権謀術数を究める野心家の姿を描く上質なサスペンス
シーズン1での主人公フランクは、基本的に合法スレスレ、もしくは 法に触れるかもしれないが 誰も彼の行為を糾弾できないような搦手を得意とし、悪どくはあっても、その冷酷さには案外現実の政治家にも似たような手腕を発揮している者がいるだろう、というレベルにいて、確かに巧みな権謀術数の冴えは凄まじいのだが、それでも観ている者の心を惹きつける魅力を発揮している。
ある意味その魅力は、日本で言えば織田信長が発する悪魔的なオーラに近しいものだ。だから、彼らがいかに残酷なことをしても、目的が手段を肯定しがちになる。
しかし、話が進むとともに、徐々にフランクの野心は闇を増し、その薄暗さや血なまぐさは極薄さを極めていく。その苛烈さについていけるかどうかが、本作を楽しめるかどうかのポイントとなるだろう。
やり方はともかく、トップを目指すなら、容赦なく闘い、ひるまず戦う主人公たちのスタンスに学ぶべき
ところで本作を観ていて思うのは、フランクにしても、彼の跡を継ぐことになる妻 クレアにしても、とにかく本作の登場人物はみな働き者だ。黒幕として指示だけしたら、あとはその結果を待つだけ、というようなフィクサー的な人はいない。フランクにしても、悪魔と契約したかのような恐ろしいほどの冷酷さでさまざまな悪巧みを施すが、たいていの場合 彼自身が汗をかき、動き回る。もちろんブレーンはいるし、コントロールできる相手はいるのだが、彼自身が常にそうした部下たちに直接姿を見せ、彼らを操るにしても縛るにしても、自分自身で必要な作業を行うのだ。
その働きぶりは、実にマメであり、懸命なものだ。やっていることは、かなり悪どいし酷い行為が多いのだが、その辣腕ぶりには頭が下がる。一定の地位に満足して、行動速度や範囲は衰えるような弱さや甘えはフランクには微塵もない。とにかく自身の野心に対する献身は、観ている我々としては拍手喝采ものだし、学ぶべき美徳であると思う。
人の恨みは買うべからず。
不測の事態に慌てることなかれ。
当初フランクがめざしていたのは国務長官のポストだった。もちろん、そのポストでさえも最終目標ではなく、ホワイトハウス入りを果たしたあとは権力の頂点、つまり大統領の座を目指していたかもしれないが、彼を復讐の鬼にしてしまい、悪意を湛えた野心家にしてしまったのは、彼に擁立してもらうことで大統領となった男と、その側近たちの失敗だ。
目先の損得勘定の結果、フランクに約束をしていたポストを他の候補者に渡そうとしたことが、フランクの自尊心を傷つけ、彼をして復讐心だけでなく抑圧されていたドス黒い野心のタガを外してしまうことになった。
フランクの自尊心の高さや、内なる野心の強さを理解していれば、彼の恨みを買うことはなかったし、彼を敵に回すようなことはなかった。有能な味方を敵にすると、今度は最悪の仇敵になってしまうという好例なのだ。
物事すべてにおいて、if(もしも)を考えることは意味がないが、もしフランクに約束したポストを与えていたら、多くの人を不幸にしてまで権力を求める怪物を解き放つことにはならなかったのではないか、と思う。
話はそれるが、主人公フランクを演じているケヴィン・スペイシーは、上述のように、セクハラスキャンダルで失脚し、演劇の世界から姿を消す。本シリーズにおいては、途中打ち切りではなく、彼の妻クレアに跡を引き継がせることによって、最終シーズン(シーズン6)を撮り終え公開にこぎつけた。
ケヴィンにそんなことが起きると考えていたスタッフはいなかったと思うし、ケヴィンのトラブルにあって スタッフはこの人気シリーズを守るためにいろいろなことを考えたと思うが、実際にクレアがフランクの跡を継ぐ展開もいささか唐突というか、強引ではあるが、それでもそれほど違和感があるわけでもない。本作はフランクを丁寧に描くとともに、クレアがフランクに劣らぬ優れた戦略家であり野心家であることを、シリーズ初期から明快に描いていた。
つまり、フランク(ケヴィン)に何かあっても代替わりできるようなキャラクターを育てていたからこそ、それほど矛盾なくシリーズを完結させることができたのだ。
優れたクリエイターまたは戦略家とは、常に何か不測の事態が起きるかもしれないと想像し、なにかしらそれに備えておくべき、という良い証左と思うし、現在のようなCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)問題のように世界的な暗い影に覆われる時代にあって、一層その必要性を感じるのである。
小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。
ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。