戦国時代に存在していた軍配者(出陣や築城開始の日時の卜占や天候予測などを行う呪術的機能と、実際の戦闘における戦略立案を行う軍事的機能を併せ持つ役割)。関東の覇権を争った北条(伊勢)、武田、上杉(長尾)の三氏のもとで存在感を示した3人の軍配者 風磨小太郎、山本勘助、宇佐美冬野助の生涯を描いた時代小説『早雲の軍配者』『信玄の軍配者』『謙信の軍配者』をご紹介。

軍配者とは

前述のとおり、軍配者とは 古代から中世の専制君主のアドバイザーとして 方角や日時の吉凶を占ったり祭祀の手配を行う呪術的な役割と、実際の戦争の軍略などを立案する軍事的役割を併せ持つ存在で、戦国時代にピークを迎えたと思われるポジションである。

世の中が拓けていくに従って、軍配者の役割も分化し、祭祀を執り行う者と軍事を執り行う者(=軍師)とに分かれていくが(本シリーズでも 最高の軍配者の例として、三国志のスーパースター諸葛孔明が選出されているが、彼もまた軍師であり祭祀を含む政治全般を執り行う文官でもあった)、本軍配者シリーズの時代設定である日本の戦国時代(15世紀末から16世紀末)は、その分化が顕れ始めた、ある意味軍配者という存在が超新星のような輝きを放つ瞬間であったと言えるかもしれない。

そして、その時期に関東圏の覇権を争った北条、武田、上杉の三家に仕えた3人の軍配者の人生を描いたのが、本シリーズである。

ちなみに、本シリーズで描かれる若き武田信玄(晴信)と上杉謙信(長尾景虎)は、比較的常識的でリーズナブルな秀才vs破天荒で直感型の天才という図式になっている。どちらの描かれ方も、結構極端でマンガ的と思えたが、分かりやすくてなかなかに愉しい。

君主のアドバイザーという生き方に共感するかしないか

下克上や天下統一など、勇ましいスローガンが散りばめられた戦国時代を舞台とした創作は多いが、大抵は君主である大名を主人公にするし(例えば織田信長や斎藤道三)、そうでなくても天下へ名乗りを上げる野心を抱く武将(例えば黒田官兵衛や真田幸村)を描くのが普通だが、本シリーズではそうした野心は持たず、あくまでアドバイザーとしての役割に徹する黒子的な存在(軍配者)の生涯を描いている。

本作には二級品の軍配者も登場し 権力の維持に躍起となるが、彼らは軍師としては二流なれど、呪術師としては優秀なのでその地位を維持できることが多い。

世襲が利きづらい特殊技能者であるがゆえに、軍配者は主家を替えることもままあり、より高い評価とやり甲斐を求めて“転職”することも多い。独学や天性のセンスで身につくものというよりも、ある程度は修練による学習が可能な技能職として捉えられており、本作中でも主人公である北条家の軍配者 風磨小太郎、武田の軍配者 山本勘助、上杉の軍配者 宇佐美冬之助の3人は足利学校という最高学府の同窓生という設定になっている。

ちなみにこの3人は3人とも祭祀の手配や卜占は不得手で政治にもほぼ興味がない。興味があるというか天才を発揮できるのは戦争における軍略のみであり、その意味では彼らは軍配者というよりは純粋な軍事アドバイザー、軍師という特性を持つ者として描かれている。

ある意味非常に現代的なポジションであり、足利学校はさしづめハーバード大やスタンフォード大もしくはMBAに相当する描かれ方をしているのが特徴だ。
誤解を恐れずいうと、軍配者の技能として定義されている 呪術師的要素は、人事や労務、あるいは経理、総務といった内部統制的な知識やスキルであり、軍事的要素はマーケティングや財務のようなスキルへと置き換えられるように思う。(その意味で言えば、彼らが仕える君主はファウンダー兼CEOであると言える)

そう規定すれば、本シリーズは現代に置き換えればCFOやCMOの存在意義と活躍を描くものであり、これまでのようにゼロから1を興そうとする戦国大名もしくは起業家たちの挑戦ではなく、彼らを扶けるプロたちに焦点を当てた新しい試みであると読めると思う。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって大きく揺らぐ現在の社会環境は、ある意味戦国時代に近い 社会変革と下克上が起きやすい時期であるかもしれない。

自ら旗印を掲げるか(起業家として生きるか)、それともこれから伸びるであろう業界、企業を選んで仕官する 現代の軍配者の道を選ぶか。後者を目指す人ならば、本シリーズは強く刺さること間違いなしと思う。
(ちなみに、獲得報酬をもって人生の勝ち組の条件とするならば、後者の方が効率的であるかもしれない)

画像: 現代の企業に置き換えればCFO x CMO?「軍配者シリーズ」

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。

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