この完結編(パート4となる)はまだ観了していないが、それまでのシリーズ1-3をNetflixで鑑賞した。
実在の拳法家を描いてはいるがストーリーは完全オリジナル(=伝記ではない)
主人公の葉問(イップマン)は、拳法を含む中国武術が盛んであった広東省の街 佛山の出身。
手技中心で接近戦を得意とする拳法 詠春拳の達人であった葉問だったが、第二次世界大戦最中の日本軍の横暴によって、多くの中国人同胞が虐げられる様に心を痛めていた。
そんな中、自身の空手の腕前を誇る日本将校 三浦との対戦を強いられた葉問は、勝てば(日本人の名誉を貶めるという理由で)命を狙われる羽目になることを知りながら、三浦との真剣勝負に挑む(パート1=『イップマン 序章』)。
三浦を倒したのち、妻子と共に佛山を脱出して香港に渡った葉問を待っていたのは、香港の武術家たちを牛耳る“組合”の存在と、彼らとの癒着で私服を肥やす英国人たちだった。
生活のために詠春拳の武館(道場)を開く葉問を快く思わない者たちとの軋轢が高まる中、葉問の敵であったはずの香港武術家組合のドンである洪(サモ・ハン・キンポー)が 英国人と仲違いしたうえ、彼らの意を汲むボクサー ツイスターとの試合に敗れ、命を落としてしまう。
敗れたものの、英国支配下にある香港にあっても中国武術家としての矜持を貫こうとした洪の姿に感銘を受けた葉問は、中国武術家の名誉を回復するため ツイスターとの試合を決意する。
(パート2=『イップマン』)
ツイスターとの試合に辛勝した葉問は、中国人の誇りを守った英雄として香港中の尊敬を集める武術家となる。多くの若者が弟子入りし、詠春拳の普及に目処が立ち始めるのだが、そんな彼の前に 真の詠春拳の後継者を自称する強敵張天志(チョン・ティンチと発音)が立ち塞がる。(パート3=『イップマン 継承』)
張との闘いに勝ち抜いた葉問は、病で妻を失うものの香港での詠春拳の地位を盤石のものにするが、今度は米国での普及を目指してサンフランシスコに渡るのだった(パート4にして完結編へ)。
いまだに多くのファンを持つカンフー・スター 李小龍ことブルース・リーの師として有名であった葉問を主人公として製作された本作だが、ところどころにブルース・リーとの接点を挿入し、ブルース・リー関連作品としての推しが強すぎるところは正直いただけないが(その意味では、4作まで続くシリーズ化は全く期待されていなかったと思うが)、Netflixオリジナル作品の『ゴッサム』がバットマン誕生秘話的スピンオフから オリジナルの面白さを獲得していったように、本作もブルース・リーの知名度頼みから、徐々に作品そのものの面白さでファンを得て、シリーズ化されてきたといえる。また、葉問を演じたドニー・イェンの確かなカンフー・アクションは見事であり、それが『ローグ・ワン / スター・ウォーズ・ストーリー』の盲目の拳士役のゲットにつながったのだろうと思う。
また、パート3の『イップマン 継承』では地上げ屋のボスとしてマイク・タイソンが出演しており、葉問との激しいファイトシーンを披露している。
中国武術と中国人の誇りを訴える葉問
本作は、日本や西洋(英国)らの実効支配に反発する中国人の姿を描いており(少なくとも特にパート2までは)国威高揚映画の側面がかなり強い。もちろん、権威をかさにして横暴の限りを尽くす権力者の姿を描きながらも、同じ権力側にいながらも正義を貫く者も置く配慮はされているが(日本軍将校であったり英国人官僚であったり)。
ドニー演じる葉問は、中国武術の至高や中国人の独立を強く訴えることはせず、あくまで人間の尊厳を守ることや公平な社会を目指す大切さを説くが、現在の香港の状況を鑑みたとき、葉問が果たしてどのような立場をとるのかを想像してみると、なかなかに興味深く感じる。
それはともかく、前述したように、ドニー・イェンのアクションは、実際の詠春拳の様がどうであるかは分からないが、少なくともその特徴を明快に示す、一貫した技法を用いて闘っていることを容易にわからせる素晴らしいものだ。
派手さはないが、その速さと連打の妙を遺憾なく発揮し、接近戦に強みを持つという彼の詠春拳がどのようなものであるのかを、観る者にはっきりと示すことに成功している。
やがて彼の弟子であるブルース・リーが創始する截拳道(ジークンドー)のベースとなったとされる詠春拳。
多くの憲法家やアクションスターにも影響を与えていることを考えると、その普及を目指した葉問の狙いは果たされていると思う。
先述のように、本作はたまたま世界的スターのブルース・リーとの縁(ゆかり)を基に生まれたB級作品だったと思うが、ドニー・イェンの確かなアクションと、葉問の発音であるイップマンという名称が英語的にも通じるパワフルかつシンプルなものであったがゆえに、非中国圏市場においても受け入れられたと考える。
その意味でも、葉問という存在は描かれるべくして描かれた、1つのアイコンになるべきモチーフであったのだと強く感じるのである。
小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。
ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。