地球規模で起きた12秒間の停電の後、世界はビートルズの存在を失っていた。誰もビートルズを知らない中で、売れないシンガーのジャックは、ビートルズの名曲を自分のオリジナルとして発表するが、あまりの反響の大きさに次第に我を失っていく・・・。

本人役で名演技を披露するエド・シーランにも注目

本作は『スラムドック$ミリオネア』でも知られる名匠ダニー・ボイル監督のミュージック・ファンタジー。不思議な停電によってビートルズの存在が消去された世界を描いている。(ちなみに人々の記憶から消えたのはビートルズだけでなくオアシスや、コカ・コーラ、ハリー・ポッターなど知らぬ者がいないであろう数々のスーパーブランド)

主人公のジャックはドサ周りの売れないシンガー。幼馴染のエリーをマネージャーに、各地を回るが芽が出る兆しはゼロ。将来を悲観して、歌手を目指す夢を諦めようとしたその夜、突如世界を謎の異変(停電)が襲う。暗闇の中で交通事故に遭ったジャックが目覚めてみると、世界は激変していた。誰もビートルズを知らないのだ。事故で前歯を失ったジャックが、幼馴染みのエリーに「僕が64歳になっても優しくしてくれるかい?」と聞くがエリーは「なんで64歳なのよ笑」と返す。ジャックはビートルズの“When I'm Sixty-Four”という曲を引用して洒落てみたわけで、それが通じなかったことに軽く失望するのだが、その時点ではエリーを含めた自分以外の人がビートルズを知らないという異変には感づいていなかった。

その後、ジャックが名曲中の名曲「イエスタディ」を弾き語ると、誰もが涙ぐみながら“初めて聴いた曲”だと口々に言うので、さすがにどうやら誰もビートルズを知らないらしい、とジャックも気づく。
これは千載一遇のチャンスかもしれない、と考えた彼は、怯みながらも、ビートルズの曲を再現し、自分の曲として発表することを決意する。果たして彼は不世出の音楽の天才として世に受け入れられ始めるのだった。

彼の楽曲(ビートルズの曲)の素晴らしさを認め、ジャックが世に出るきっかけを作る世界的アーティストとして、エド・シーランが本人役として出演している。そのほか、レディー・ガガやカーディー・B、ジャスティン・ビーバーなどの著名アーティストの実名がポンポン飛び出るのも楽しい。

もしもの世界の中で生まれたチャンスをモノにできるかどうかは、本人次第

ドラえもんの4次元ポケットのひみつ道具の一つ、もしもボックスを使ったかのような世界。
もしも誰もビートルズを知らなかったら?そして自分だけが ビートルズの名曲を再現できたなら?そんな“もしも”の世界を映画化してしまったのが本作だ。

主人公のジャックは、自分の記憶だけを頼りにビートルズの名曲を再現し、演奏し歌う。仮に僕がジャックと同じ立場になったとしても、ビートルズの音楽を再現するスキルも能力もないので、何のアドバンテージも得られない。
ジャックはビートルズのメンバーと同じ英国の歌手で、人並み以上の音楽の才能を持っていたから、ビートルズの音楽を我がものにすることができた。(とはいえ、音楽史に輝く天才たちの偉業をそのまま自分のものにすることができる 本物の詐欺師の厚かましさを持ち合わせておらず、同時に自国の天才へのリスペクトを忘れることのできないジャックは、激しいストレスと罪悪感にさらされるのであるが)

仮にスマホがない世界に僕がいたとして、スマホを再現するチャンスを僕が得られたか。仮にインターネットがない世界に僕がいたとして、インターネットを再現する栄誉を僕は得られるだろうか。

もしもボックスを使えたとしても、その“もしもの世界”で、実利を得られるかどうかは、やはり自分次第なのである。

現在、世界は新型コロナウイルス感染症(COVID-19 )の流行によって、大きな変革の波にさらされている。その影響を単にデメリットとしてダメージを受けるか、固定化されつつあった社会構造が大揺れしている状況をチャンスとみて自分ならではのメリットを見つけるかも、やはり自分次第であると思う。

この映画が訴えるメッセージは、本来そういうことではないかもしれないが、ビートルズやオアシスがいない世界には音楽を志していたジャックにとっての機会が存在したが、ハリー・ポッターがいない世界ならばファンタジー小説を発表するチャンスが来ているのかもしれないし、コークがコカインを意味するだけの世界ならば、世界的清涼飲料水メーカーを起こすチャンスが目の前にあるのかもしれない。自分にとって最良の“もしもの世界”は何なのか、それを考えてみるいい機会となる、そんな映画であると僕は思った。

画像: 『イエスタデイ』もしも誰もビートルズを知らなかったら、あなたは世界的ミュージシャンになれるか?

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。

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