オーソン・ウェルズの名作「市民ケーン」(1941年)の脚本を手がけた脚本家、マンクことハーマン・J・マンキウィッツの反骨精神溢れる半生を描いた『Mank/マンク』。
デヴィッド・フィンチャー監督が6年ぶりにメガホンを取った本作はNetflix配信を前提として制作された、全編モノクロ作品だ。

オーソン・ウェルズや「市民ケーン」を知らない人たちへ

本作は、名優そして名監督として映画史上にその名を残すオーソン・ウェルズと、彼の主演・監督作品でありアカデミー脚本賞を受賞した名作映画「市民ケーン」について、それなりの知識がないと、十分に楽しめない映画だ。

ということは、少なくとも40代以上か、よほどの映画通でないと、対象にならない作品であると思えるので、よくもNetflixがこの企画にGOサインを出したものだと若干呆れる思いだ。(実際、映画そのものはよく出来ていると思うも、僕のウェルズおよび「市民ケーン」への予備知識程度では、残念ながら本作の持つ真価を捉えることができていないと思える)

オーソン・ウェルズは1915年生まれで、「市民ケーン」の監督を務めたのは若干24歳のとき。その前年に(これは有名な話だが)ラジオドラマの「宇宙戦争」(火星人が攻めてくる、というH.G.ウェルズ原作のSF小説をベースとした作品。2005年にはトム・クルーズ主演でスティーヴン・スピルバーグ監督が実写映画化している)の、実際のニュース報道と間違うほど臨場感あふれた演出のナレーションを担当したことで、急激に知名度を上げ、全米のエンターテインメント業界の寵児になった。

そして、彼が手がけた「市民ケーン」は、実在の新聞王公のケーンがウィリアム・L・ハーストをモデルにしたことで知られる、孤独な野心家の生涯を描いた骨太作品であるが、その内容がハーストを風刺していると認識されたため、公開当時はさまざまな妨害行為を受けたという曰く付きの作品だ。

モデルとされたハースト(当時存命だった)側から執拗な上映妨害を受けたことにより、第14回アカデミー賞においても多くの部門でノミネートされたにもかかわらず、脚本賞しか取れなかった。

もちろん、当時の賞レースのあり方はともかく、「市民ケーン」は現代に至るまで、映画史上に残る傑作中の傑作という高い評価を受け続けてはいるのだが、あまりに古くてもはや昨今の若者にはその名も知られていないだろうし、鑑賞する機会などあり得ないだろう。その意味では、もはや古典と言ってもいい代物で、今の若い世代がその名前さえ知らないとしても、常識がないと責めることはできないとは思う。

反骨精神溢れる脚本家が意地を見せた作品

画像: 『Mank/マンク』予告編 - Netflix youtu.be

『Mank/マンク』予告編 - Netflix

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そして、本作『Mank/マンク』は、その「市民ケーン」の脚本家マンキウィッツにスポットライトを当てた作品だ。「市民ケーン」の脚本は、オーソン・ウェルズとの共同制作ということになっているが、実際にはマンキウィッツとウェルズは作曲と編曲のような作業分担であり、実質にはマンキウィッツの原案。本作においてもその認識で描かれている。

マンキウィッツがなぜハーストをモデルとした作品を書き上げたのかは実際のところはわからないが、彼を題材にすれば執拗な妨害工作の槍玉に上がることは分かっていたはずで、かつ当初は映画作品のクレジットの中で脚本家として自分の名前を出さない契約(つまりゴーストライターとなる)をしていたはずなのに、脚本を書き上げ終えてから、敢えて「市民ケーン」のクレジットに自分の名前を出すことにこだわったのも、その心情に何某かの変化があったのだろう。

本作においては、マンキウィッツ(演じているのは名優ゲイリー・オールドマン)がハーストや映画配給会社とその業界全体の政治思想や体質と対立していたため、意趣返し的な意図があったように描かれているが、本当のところは僕にはわからない。

いずれにせよ、マンキウィッツがハーストや当時のハリウッドの業界の体質になんらかの“違和感と反発”を抱いていたことは間違いないだろうが、本作『Mank/マンク』を作ったデヴィッド・フィンチャー監督自身にもマンキウィッツに近い“違和感と反発”がいまだにあるのかもしれない。そう思うと、ネット配信型のサービスへの提供を前提として本作が生み出された理由もなんとなく納得できるものがあると言える。

画像: 『MANK/マンク』デヴィッド・フィンチャー監督が描く、名作映画誕生の舞台裏

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。

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