その手法を使いこなしている事例は今日であっても、容易に思いつくので、人間て変わんねぇな、人間て愚かだな、と思いしらされる作品。
独裁者たちを紹介する出色のドキュメンタリー
本作の要諦は、予告を見るだけでもわかる。
世界に悪名を轟かせた暴君≒独裁者たちを紹介しつつ、彼らが得意とした共通的なやり方=暴君になるためのさまざまな手法を紹介する作品だ。形式的には、暴君になるための方法を紹介する、いわば彼らのようになりたい人向けのプレーブック(原題ではハンドブック)の体裁だ。
彼ら独裁者の中には、ヒトラーやフセインらのように最終的には失脚したり非業の死を遂げる者もいれば、スターリンのように独裁者のままこの世を去るもの、もしくは北のあの国の金さんたちのように世襲制にすることに成功する事例もある。
だから,必ずしも独裁者になることが悲劇的な最期を意味するわけでもないし、未来永劫続く幸福を得るための方法であるとも言い切れない。ただ、大抵の場合、独裁者の暴威に晒される市井の人々は大変に迷惑を被るのは間違いがない。
実は身近にいる暴君たち
ちなみに、これをみていて、国家レベルの独裁者の事例であるが、彼らの資質ややり方の多くは 企業レベルの独裁者(言葉が過ぎたかもしれない)にも当てはまるのではないか?と思った。
企業の場合は、国家レベルのそれと比べると“天寿”を全うするケースが割と多いが、それでも志半ばで追い出されることもある(とはいえ大抵は大金持ちになっているので捲土重来のチャンスを与えられていることが多いのだが)。
例えば、WeWorkのカリスマ創業者で元最高経営責任者(CEO)のアダム・ニューマンは、WeWorkのIPOには失敗し、会社から追い出されたものの、一時はこの会社を時価総額470億ドル?にまで押し上げ、ソフトバンクグループの孫正義をして何億ドルもの資金拠出させるほどの実績を残した。彼の奇行はよく知られるところで、その内容を見ると、本作で紹介される独裁者たちと驚くほど似ている。言葉を選ばずに言えばサイコパスのようである。
逆にいうと、逆境からとてつもない資産や権力を取得できるような人物は、おしなべてそういう資質がある、と言えるのかもしれない。(起業家にはソシオパスが多いとはよく聞く話ではある)
本作の、本来の意図である、"反面教師"から多くを学ぼう
ともかく、世の同調圧力に弱そうな日本人は、必ず本作を観るべきと思う。
わすれてはならないのは、彼ら独裁者の多くは、民主的な手続きで選ばれたということだ。つまり、我が国も再び独裁者を産み、その結果再度泥沼の戦争に引き摺り込まれる可能性はあるのだ。自分達とは関係ない、他人事だと思う人がいるかもしれないが、それは明らかな間違い。自由主義、民主主義国家のリーダーと目されるアメリカ合衆国だってポピュリズムの最たるような人物を国のトップに選んでしまった(その後考え直したが)ことを忘れないようにしたい。その意味でも、本作を見て、暴君を生み出さない方法を心に刻みつけておくべきではないか、そう思うのである。
小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。
ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。