イギリスはグラスゴー生まれのシングルマザー ローズリン。カントリー歌手としての成功を望むが、夢の実現を引き寄せるノウハウも知らず、無頼で無軌道な暮らしからなかなか逃れられずにいたが・・・

トランスジェンダーに自らを例える哀しさ

本作は、類まれな才能を持ちながらなかなか目が出ず、無軌道で破天荒な生き方をしながらも、その暮らしからなんとか脱却したいともがく若者の姿を描いていると同時に、そんな若者をとりまく大人たちのさまざまな(暖かかったり冷たかったりする)目を取り上げている。

主人公のローズリンは、日頃の行動自体は 正直無自覚であまり褒められたものではない。酒にハマるし、男にもややだらしない。2人の子供の母親の責任感からはかなり程遠い。だから2人の子供たちから懐かれているとも言えない。

ただ、美人と言える容姿と、聴くものを心底惹きつける素晴らしい歌声をもっていて、それがゆえに 大人たちでさえも彼女の無責任な行動を咎めながらもローズリンの世話を焼いてしまうのである。

そんな周囲のヤキモキを知ってか知らずしてか、ローズリンは自らの悩みをトランスジェンダーに例える。男のからだに女の心が宿ってしまっているのと同じで、生まれも育ちもグラスゴーな自分は、心はカントリー好きのアメリカ人である、こんな悲劇があるか?と。
しかし、それを聴いた“大人”は、それが何か問題か?と思うし聞き返す。だから何?と。

結局のところ、ローズリンは甘えている。カントリー歌手を目指したいのにアメリカではなくイギリス人として生まれた、だからムリ。それは言い訳に過ぎない。
子供がいるからムリ。そう思うなら最初から産むべきじゃなかったし、今さらそんなこと言われたら子供がかわいそすぎるじゃないか。

本作は、若者の無謀な夢をあっけなく潰そうとする大人の冷めた分別と、若者自身の身勝手で短絡的な無自覚という、夢見る者の足を引っ張り続ける2つの強烈な引力を、いかに振り切って跳び上がるかを、そしてその方法を描いた青春物語なのだ。

家族を守り夢を諦めるのか?家族を犠牲にしても夢を追うのか?

本作はバッドエンディングではない。
また、メリーバッドエンドと呼ばれる、見ようによっては良い結末かも?と言えるような 捻りもなく、余計な苦さもない。つまり、ローズリンはカントリー歌手になれるし、2人の子供たちともうまくやれる。結末を言うなよ!と叱られそうではあるが、この手の映画でパッドエンドならとても観てられない(くらい辛くなる)から、先に分かっていてみればいいと思う。逆に言うと、どうやって成功を掴むか、が焦点になっている映画なのだ。

それに、本作における最大のテーマである、夢を追いかけることの大切さと、それによって犠牲になりがちな家族や周囲との関係への配慮、それらを両立させることはできるのか?というポイントに正しく向かい合って欲しいのである。

ローズリンを演じているのは、アイルランド出身で1989年生まれのジェシー・バックリー。典型的な美女、という感じでもないが、親しみやすい容貌と素晴らしい歌のパフォーマンスで観るものを惹きつける。才能あふれるシングルマザーという役どころに説得力持たせてくれていると思う。

画像: 『ワイルド・ローズ』英国でカントリー歌手を目指すヒロインを描いた青春物語

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。

This article is a sponsored article by
''.