日本が誇る名匠 是枝和裕監督の初の国際共同製作作品。往年の名女優ファビエンヌの自伝を巡って繰り広げられる、母と娘の愛憎劇を軸とした人間ドラマ。
年老いてなお名声にこだわる大女優役を、フランスの大スター カトリーヌ・ドヌーブが演じ、その娘役を「ショコラ」で大ブレイクしたジュリエット・ビノシュ、さらにその夫役にイーサン・ホークという豪華キャストだ。

フランス語と英語が混じる国際共同製作作品

本作の舞台はフランス パリ。当然物語は基本的にフランス語で進められるが、大女優ファビエンヌの娘 リュミールの夫は米国のテレビ役者で、リュミールたちはNYで暮らしているという設定。夫はフランス語がわからないから彼とのコミュニケーションは英語となる。

物語は、ファビエンヌの自伝「真実」が出版されることになったことが発端になっている。自分たちのことがどう記されているのか、ファビエンヌの中でどういう立ち位置に置かれているのか、ということが気になってリュミールは夫と娘を連れ立って帰郷してくる。また、ファビエンヌの元夫や、付き人らも自伝の中の自分≒ファビエンヌにとっての自分 がどのようなものなのか気が気でない。

自伝に書かれた と、書かれなかった真実を巡っていき違う、人々の心模様を描いたヒューマンドラマ。

こじれた関係を解いていくのは大人の役目

本作は、妻や母親であることを捨て、24時間365日 女優であろうとするファビエンヌと、その娘や配偶者、長年の秘書などの心の触れ合いを描いている。ファビエンヌを演じるのはカトリーヌ・ドヌーブ。役と現実がダブってしまいそうだが、彼女は 頑なに常に大女優のオーラを保とうとするばかりに、家族や友人の前でもその仮面を脱ぐことができなくなっている。
真実、と銘打った半生を綴る自伝を出版しても、その本を手にとる自分のファンたちを喜ばせることができるような 偽りのエピソードしか載せない。娘や秘書たちがそれを責めても 何をバカなことを言っている?としか思えない。自分は女優なのだから、その印象を覆すような“真実”を載せるなんてあり得ないだろうと感じるのである。

言われなくてはわからない!とか、教えてくれなきゃわからない!と金切声を立てる若い世代のわがままには閉口することが多いが、同時に 口で言えばいいことを 気恥ずかしいのか面倒臭いのか きちんと説明せずにオレの背中を見ろ的な姿勢をとり続ける頑固な年寄りのやり方にも我慢ならない。

教えるべきことは手間を惜しまず丁寧に指南しなければならないし、教わる方も行間に込められたノウハウや秘訣を学びとろうとする謙虚な取り組みが必要だろう。

本作では、愛情は感じながらも、そのことをうまく説明できないばかりか、女優として生きることの体面を重んじるがゆえに 気軽に本心を表に出すことができなくなってしまった大人と、秘められた愛を感じとれないことを 自分の未熟さとは考えずに、ひたすら厳格な母親の仕打ちの冷たさを恨むことしかできなくなってしまった子供(とは言っても、役柄的に既に40代には達しているいいオトナではあるが)のすれ違いが描かれているわけだが、やがて老女優の方で、徐々に頑なな“スタイル”に綻びができ、素直な感情を口に出せるようになっていくことで、周囲との軋轢がおさまっていく。

わだかまりが生まれたときは、年若の方から歩み寄りがあると思ってはいけない。是永監督はそう思っているのかもしれない。

二度観ようとは思わない?

本作が日本国内で封切られたのかはわからない。世界市場に向けて公開はされただろうが、受けた評価についても僕は知らない。カトリーヌ・ドヌーブという超大物をヒロインに据え、イーサン・ホークのような知名度のあるスターを比較的地味な役どころで使っている本作は、製作側の相当な労苦が偲ばれるが。

ただ、正直是永監督の手腕は、日本の情感を世界に伝えるためには意味を為しても、普通のストーリーを単にドラマ化するだけならば、その卓越した技量はあまり輝きを放てないような気がする。
本作も、演者は巧みに与えられた役どころを演じているし、全体としてよくできていると思うが、ただそれだけであり、よくできた人間ドラマ、という感想以上の何かを得ることはできないのである。

画像: 是枝裕和監督のフランス映画『真実』カトリーヌ・ドヌーブをヒロインに起用

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。

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