大きくご覧いただいたエンジン写真は、この4月に金子氏がロンドンで再会したトヨタ・カルディナのものである。本来は日本専用のエンジンとして登場した、希薄燃焼方式のリーンバーン機構を採用した1.8ℓの7A-FE型エンジン。その開発に携わったトヨタの柴垣氏に、大陸横断紀行中に発生したエンジン不調についての意見をうかがうことができた。
文:金子浩久/写真:山口真利、田丸瑞穂
※本連載は2003〜2004年までMotor Magazine誌に掲載された連載の再録です。当時の雰囲気をお楽しみください。

リーンバーンだったから起きたエンジンの不調?

柴垣さんは、僕らが旅行中にアップデートしていたホームページを見て下さっていたので、話は早かった。

「ホームページに書かれていたような、ガソリンのオクタン価の低さが咳き込みの理由ではないと思います」

では、何が原因か。

「スロットルペダルを少し戻すと振動が発生するということは、リーンバーン領域に入った時に発生すると考えて間違いないでしょう」

柴垣さんは、理路整然とリーンバーンエンジンの仕組みと7AFE型が開発された背景について説明してくれる。

7AFE型に採用されたリーンバーン技術の根幹を成しているのは「NO × 吸蔵式触媒」と「燃焼圧センサー」だということも明らかにしてくれた。興味深いのは燃焼圧センサーで、一番気筒の燃焼室内に設置され、なんと毎回のエンジン爆発トルクを計測しているという。センサー先端に埋め込まれた圧電素子が爆発の圧力によって1000分の1ミリの単位で歪むのを検知し、正常な燃焼が行われているかどうかを判断するのだ。

もし、あの時のカルディナに測定機器でも装着されていて、そのデータを柴垣さんに調べてもらっていれば、「ガクガクッ」の原因は判明していただろう。

燃料の質の問題の他に考えられるのは、スパークプラグが燃焼に必要な強さの点火を行っていなかったのではないかという疑問だ。

「他の回転域では点火しているわけですから、失火ではないでしょう。着火しても、すぐに消えていくのです。混合気が全部燃え切らないうちにピストンが下がって、圧力が下がってしまうのです。その可能性も高いですね」

柴垣さんは、慎重に言葉を選びながら、僕らの質問に答えてくれた。

「それとも、SCVが一時的におかしくなったのかな」

SCVとはスワール・コントロール・バルブの頭文字を取ったもので、燃焼室内に混合気の渦流を発生させることを目的としている。渦を発生させることで、シリンダー内部に空気をたくさん入れ、トルクを増すための工夫だ。そのバルブのバキュームパイプなどにゴミなどが詰まったりして、一時的にうまく作動しなくなっていたとすれば、これも合点がいく。SCVが2100回転なり3000回転前後でうまく働かず、吸入空気量が少なくなって、十分に燃えず、発生するトルクが減少する。

「ガソリンの成分の違い、SCVの作動不良ですかねぇ……」

いずれにせよ、カルディナのシリンダーヘッドを開けてみたり、柴垣さんに同乗でもしてもらわない限り、断定的なことは何も言えない。

「“1000分の1ミリ単位の歪み”とか、“シリンダー内の渦流”とか、そんなデリケートな動作が行われていたなんて、そのギャップの大きさに驚いてしまいます。僕らの旅は、タンクローリーのパイプから直接ガソリンを注ぎ込むような乱暴なことの連続でしたからね」

燃焼圧センサーを手に取って、田丸さんがしみじみと思い出す。

柴垣さんは、旅行中の僕らのホームページを見て、どんな感想を抱いていたのだろうか。

「たしか、前半は道路事情があまり良くなくて、後半はけっこう平均速度が高くなったんですよね。リーンバーンは、いろいろな要素によって燃焼が不安定になりやすい面があります。そういったところは、心配ではありましたね」

そうか、7AFEのリーンバーン燃焼が効力を発揮して好燃費で走るのには、ロシアの環境は適切ではなかったようだ。ガソリンスタンドの数がもっと少ないのではないかと事前に予想していたから、選択肢は7AFE搭載のカルディナしかないと決めていたのだ。

好燃費であるのに越したことはないが、それを実現するためには日本国内と同等の品質のガソリンが確保されていなければならない。まぁ、「ガクガクッ」と振動は起こったが、それで走れなくなったわけではないから、結果的に問題はなかったとも言えるのだが。

このカルディナを選んだ理由のひとつに、レギュラーガソリン指定だという点がある。田丸さんが何台も乗り継いでいるスバル・レガシィも候補に挙がっていたが、ほとんどのグレードがハイオク指定なのだ。ロシアの田舎で、ハイオクガソリンが確保できるとは思えない。

「ハイオクガソリンが指定されていても、最近のクルマはオクタン価に応じた制御を自動的に行っています。レギュラーガソリンを入れても、最高出力が出なかったり、ほんの少しだけ燃費が悪化するぐらいで、大きな問題はありませんよ」

えええっ、本当ですか。じゃあ、レガシィでも問題はなかったんだ。僕らは、大きく落胆した。

ロシアを横断するのに、「リーンバーンで好燃費」プラス「レギュラー指定のステーションワゴン」というチョイスは、理にかなった戦略だったと自負している。しかし、現実はその通りではなかったのだ。

「後半は、一日に1000キロ以上走られていましたよね。僕もドライブ旅行が好きなのですが、北海道でもあんなには走れませんね。ロシアでは、盗難の心配とかはありませんでしたか?」

柴垣さんは、僕のノートパソコンで再生している道中のビデオ映像を興味深そうに眺めている。走ってみたそうな感じだ。

「ガクガクッ」の原因を完全に特定することはできなかったが、柴垣さんにいろいろと教えてもらって良かった。行くかどうかはわからないけど、次に行く時のための参考に、大いになった。
(続く)

画像: ユーラシア大陸横断をやり終えてロンドンに到着した直後の金子氏。無事に走り抜いた7A-FE型エンジンとともに記念撮影。(撮影:永元秀和)

ユーラシア大陸横断をやり終えてロンドンに到着した直後の金子氏。無事に走り抜いた7A-FE型エンジンとともに記念撮影。(撮影:永元秀和)

画像1: ユーラシア大陸自動車横断紀行 Vol.24 〜カルディナの不調をトヨタのエンジニアと検証する〜

金子 浩久 | Hirohisa Kaneko
自動車ライター。1961年東京生まれ。このユーラシア横断紀行のような、海外自動車旅行を世界各地で行ってきている。初期の紀行文は『地球自動車旅行』(東京書籍)に収められており、以降は主なものを自身のホームページに採録。もうひとつのライフワークは『10年10万kmストーリー』で、単行本4冊(二玄社)にまとめられ、現在はnoteでの有料配信とMotor Magazine誌にて連載している。その他の著作に、『セナと日本人』『レクサスのジレンマ』『ニッポン・ミニ・ストーリー』『力説自動車』などがある。

画像2: ユーラシア大陸自動車横断紀行 Vol.24 〜カルディナの不調をトヨタのエンジニアと検証する〜

田丸 瑞穂|Mizuho Tamaru
フォトグラファー。1965年広島県庄原市生まれ。スタジオでのスチルフォトをメインとして活動。ジュエリーなどの小物から航空機まで撮影対象は幅広い。また、クライミングで培った経験を生かし厳しい環境下でのアウトドア撮影も得意とする。この実体験から生まれたアウトドアで役立つカメラ携帯グッズの製作販売も実施。ライターの金子氏とはTopGear誌(香港版、台湾版)の連載ページを担当撮影をし6シーズン目に入る。

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