文:金子浩久/写真:山口真利、田丸瑞穂
※本連載は2003〜2004年までMotor Magazine誌に掲載された連載の再録です。当時の雰囲気をお楽しみください。
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ユーラシア大陸自動車横断紀行 Vol.23 〜カルディナとの再会〜
ロシアでなぜか急に機嫌を損ねたエンジン
ユーラシア大陸を横断し終えたあと、東京に戻ってきて、決まって僕と田丸瑞穂さんの口に上るのは、トヨタ・カルディナのエンジンの咳き込みについてだった。カルディナは、ウラル山脈を越えた国道M7号線を走行中に、それまで何ごともなく快調に回転していたエンジンが、急に不整を起こすようになったのだ。
症状としては、カルディナを発進させ、一定の速度に達して安定的に走るようになった時に発生していた。突然、「ガクガクッ」とエンジンが回転を止めようとし、それに従って、ボディが前後に揺すられる。
振動が起こるのは、エンジン回転が決まって2100前後にある時だ。でも、2100回転に達したら必ず発生するというものでもない。起こる時と、起こらない時とがある。その違いは、何だろう。
「こうやって、スロットルを少し戻した時に出ますよ。ホラッ」
神妙な面持ちになった田丸さんが、スロットルワークを細かく調節しながら、振動が発生する回転域を探っている。
「スロットルを踏み込んで加速していって、スッと抜いて2100回転ぐらいに落ちると、いきなりガクガクッて来ますよ。ホラッ」
その通りだった。回転が2100辺りにあっても、スロットペダルを戻さずに、踏み続けている限り「ガクガクッ」は起こらない。
田丸さんはM7号線沿いの自動車部品店を見付け、カルディナを停めた。ボンネットを開け、エアクリーナーのフタを開けてみると、中には虫の死骸や枯れ葉、枯れ枝、土ぼこりのかたまりがびっしり詰まっていた。
「これだ、これだ」
田丸さんはエアフィルターを取り出し、地面に叩き付けて中のゴミを出した。フィルターが詰まって、エンジンに十分な量の空気が送られなかったのだ。一件落着!
だが、僕らの目論見は通用しなかった。また、同じように「ガクガクッ」が起こったのだ。それも、発生する回転域が違っている。
「今度は、3000回転前後に上がりましたよ」
結局、僕らはなす術がなく、そのままダマしダマし走り続けるしかなかった。M7号線をモスクワまで走り、そこから北北西に進路を取り、一気にサンクトペテルブルグに向かった。
5日後、国際フェリーでドイツに入国し、そこからは天下のアウトバーンが待っていた。鏡のようにスムーズな片側3車線を、文明的な秩序にもとづいてクルマが走っている。
カルディナもずっとフルスロットルを続け、空いた直線では時速180キロ近くをマークした。エンジンは、3000回転よりもはるか上で回っているから「ガクガクッ」は発生しない。でも、回転をゆるめ、3000回転前後で少しスロットルペダルを戻すと、発生することに変わりはなかった。
「タンク内のガソリンが、ロシアのものからヨーロッパのものに完全に入れ替われば、出なくなるかもね」
ロシアとヨーロッパのガソリンのクオリティの違いや、あるいはオクタン価の差が「ガクガクッ」の原因であるならば、ドイツに入ってから走り続けてタンク内のガソリンが入れ代われば、解決するはずだ。
エンプティ近くまで走って、満タンにすることを繰り返したら、5回目でほぼ「ガクガクッ」は消えた。あのエンジンの不整は、いったい何だったのだろうか。
できたら、あのカルディナの7A-FE型エンジンを開発したエンジニアに会って、教えてもらいたい。願いというのは通じるもので、トヨタ自動車パワートレーン本部の柴垣信之さんが、質問に答えてくれることになった。