ジャック・レモン、アル・パチーノ、エド・ハリス、アレックス・ボールドウィン、ケヴィン・スペイシーなど、超芸達者な名優揃い踏みの本作。セールスの基本、要諦そして厳しさを徹底的に教えてくれる。

セールスマンの厳しい世界を有名俳優たちが熱演

1993年公開のめちゃくちゃ旧作。
不動産セールスの会社の営業所を舞台とした人間ドラマで、一線級の男優たちの競演が話題になった作品。主人公のシェリー役をマリリン・モンロー主演の「お熱いのがお好き」にも出演している名優ジャック・レモンが演じている。

シェリーの同僚にして、やり手のセールスマン ローマ役にはアル・パチーノ。さらにエド・ハリスやケヴィン・スペイシーなどが配され、本社から送られてくる幹部社員にはアレックス・ボールドウィン、という豪華さだ。

特に、アレックス・ボールドウィン扮する若手幹部は、映画冒頭に 営業所社員にクビを賭けた必死のセールスを行うように 傲慢たっぷりに檄を飛ばす。彼はそのシーンだけで退場し、その後は一切顔を出さないのだが、本作の影の主役と言っていいほどの存在感を残す。

彼は、セールスマンの心得として、ABCAIDAを板書して説明するのだが(ABCは、Always Be Closing=常に 契約をまとめよ!の意味であり、AIDAは Attention→Interest→Desire →Action、つまりお客さまの注意を惹き、興味を持ってもらい、欲望を掻き立てて、契約してもらう、というプロセスのこと。日本では、DとAの間にMemoryのMを加えたAIDMAの方が有名かもしれない)、初めてこの映画を見た90年代には、AIDAの方を強く記憶したものだが、今となってはセールスマンの心構えとしてのABCと、お客さまの心理的変化をあらわしたAIDAでは、ABCを常に意識しておくべき→肉食獣は捕食者(プレデター)としてのアイデンティティに率直でなければならない、セールスマンは契約を取ることに集中すべき という思いを強くした。
逆にいうと、AIDAもしくはAIDMAを意識し、大切に語る人が多いわりに、ABCを重要視する声はあまり聞かない気がするが、この映画の本質はABCにあると僕は思えた。例えるならば、 華麗に判定勝ちをするボクサーより不恰好で泥臭くても相手をKOするボクサーを讃えるようなものだと思う。

自分の遺伝子にどんなABCを刻むか

本作は、不動産セールスという業界に身を置くセールスマンたちの厳しい現実を描いたものだ。

ある不動産会社の営業所に、ある日本社から幹部社員がやってきて、成績トップには高級車を与えるが、成績が振るわない者は即刻クビにすると通達される。トップを取る見込みがない社員は、不況下に会社を追い出されるリスクに慄然としつつも、必死に抗おうとする、という話だが、お客を騙してでも関心を引き出し、商品を売りつけようとする彼らのテクニックや話術、そして契約をまとめるための心構えなどがふんだんに登場する。
主人公のシェリーは、かつては腕利きのセールスマンとして好成績を上げていたものの、老いて 病人の娘を抱えた今に至っては、すべては昔取った杵柄になってしまっている。

それでもなんとか生き抜こうとするシェリーの姿は涙なしにはみられないほど必死だが、先天的か後天的かはおいて、その遺伝子に“ABC”を叩き込まれたセールスマンの抵抗は確かに見るべきものがある。

百獣の王と呼ばれるライオンでさえ、狩の成功率は20%程度らしいが(ちなみにライオンは一度失敗したくらいじゃへこたれないし、すぐ次へいける体力がある)、ハンティングはなかなか百発百中とはいかない。しかし、肉食動物として狩で獲物をゲットすることが遺伝子に刻み込まれている彼らは 他のことに目を向けることなく、失敗したら再び別の獲物に狙いを定める。セールスマンたちも 例え失敗したとしても狩の確率を少しでも上げて、徒労に終わり体力を削がれ心折られるシーンをなるべく減らそうとして、必死に必要な技術を身につけ、優れたハンターになろうとするのだ。

詐欺まがいの彼らのトークは、コンプラ的には現代ではアウトな点も多いが、現代に生きる我々にとっても参考になるスキルの共通点が多々あって、とても勉強になる。

例えば、本作においては、皆おしゃべりというか、よくしゃべるのだが、その結果不用意なことを口にして失敗する様子が幾度となく描かれる。黙っていればいいのに、というシチュエーションに陥っても、トークそのものが仕事の武器である彼らセールスマンはなかなか口をつぐめないのである。
が、そんな彼らだからこそ、沈黙は金というか、状況を完全に把握するまでは静かにして待機すべきという緩急を身につけなければならないという教えになっていると思う。

古い映画だと思って、単にノスタルジックに眺めるのもアリはアリだが、2500年以上前の超古典である孫子をいまだに信奉するビジネスパーソンや軍人がいることを思えば、たかだか30年ほど前に製作された本作から学ぶことは決して少なくないはずである。

常に契約をまとめよう、という意識で己を縛り余計なことは考えない

本作において、セールスマンたちの行動基点になるのは“ネタ→Lead”の取得にある。
本作においては(不動産業界に共通する?)Leadとは 不動産投資または取得に興味のある家庭や企業の連絡先のことらしく、それらは会社が金を使って入手し、セールスマンたちに配るものとして描かれている。会社としては、ある意味苦労して得たLeadを無駄にされたくないから、成功率の高い、すなわち敏腕セールスマンにイイLeadを渡そうとする。

Leadの良し悪しは、その予算、気になっている物件の有無や特徴、購入希望時期などの条件によって決まるが、セールスマンたちからすると、少しでもいいLeadを勝ち得ることが死活問題になるというわけだ。

本作においては、Leadを得る、という作業は会社任せ、セールスマンたちは与えられたLeadから確実に契約をとる(商品を売る、金にする)ことにフォーカスしている。

つまり、良いLeadの取り方、というスキルセットのヒントを得ることはできないが、そのLeadからAIDAの流れを作り金を生む作業と、その作業を実践してくれる ABCを遺伝子に刻み込んだハンターたちの在り方について勉強になる、素晴らしい教材なのだ、この『摩天楼を夢みて』は。

画像: 『摩天楼を夢みて』で学ぶセールスのABC

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。

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