腕利き料理人のサラが急死。彼女の親友や母親らが力を合わせて、サラの夢であった小さな洋菓子店の成功に挑む。
念願の店舗の契約日に事故に遭う?サラ
物語は、親友イザベラと2人で借りることにした店舗に向かうサラの意気揚々とした姿から始まる。彼女に見舞う悲劇の様子は描かれないが、彼女の突然の死により、彼女の夢であった洋菓子店の開店はいきなり座礁に乗り上げることになる。
サラと2人で洋菓子店を始めることにしていたイザベラは、一度は店の経営を諦め、店舗を手放すことを決意していたが、サラの一人娘や(彼女の祖母=)サラの母親らの熱意に絆され、洋菓子店“LOVE SARAH”のオープンを決意する。
そこに、かつてサラの恋人であり、イザベラとも何やら関係がありそうな腕利きのシェフ マシューが加わり、4人の困難な船出が始まるのである。
4人に与えられた設定(背景)はさほど展開されない?
サラの母親は元一流の空中ブランコ乗り、サラの娘はモダンバレエの才能があり、イザベラには菓子職人として大成する可能性がある。マシューはミシュラン2つ星を勝ち得たレストランでシェフを務めていた。
イザベラとマシューの実力はともかく、空中ブランコやバレエは店舗経営に関係なく、そしてその伏線は最後まで意味を成すことがない。
回収されない伏線を置くのはストーリーを複雑にするだけだから、やめるべきと僕は思うが、人物設定に凝ることが創造のスパイスになると考えるクリエイターは実際とても多いのが実際のところだ。
ロンドン市民の多国籍化に着目したビジネスアイデアで勝負
イギリスの首都ロンドンは、僕たち日本人からすると背広を着た白人が闊歩する金融の街(まあ、シティ=シティ・オブ・ロンドンのような?)あるいは007シリーズに見られるような近代的な都市の景観をイメージしてしまうかもしれないが、実際にはさまざまなな人種が暮らす、多国籍かつ多様な文化と今昔が混在する都市である。
そこに目をつけ、サラの遺志を継いだ洋菓子店は、伝統的な英国菓子や流行に乗った最新スウィーツではなく、ロンドンに居を構えた外国人が郷愁を持つ、彼らの地元スウィーツを提供するというビジネスアイデアに辿り着く。
シンプルなストーリーの活かし方を捨てた?
本作は、1人の女性の死に打ちのめされた人々が、その遺志を相続するという願いのもと、かつての恩讐を超えて協力し合い、やがて本物の友情や愛情を育むようになるまでを描いた作品である。
尺も短めで比較的シンプルな作りなのだが、前述したように余計な設定や描写が入り込むのが気になるところだ。シンプルなだけでは物語に奥行きが出ないと考えた製作陣がスパイスのつもりで付け加えたのかもしれないが、シンプルな物語を上手に膨らませてこそ演出の妙というものなのにな、と残念に思う。
同じフレーズを繰り返しながら仕上げていく名曲は多いはずで、余計なメロディや切り替えは本来不要なものだと考える。
映画冒頭から 本当のヒロインたるサラがいなくなるのはいいアイデアと思うだけに、本作が途中からかなりぼやけてくるのがとても口惜しく感じるのである。
小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。
ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。