マシュー•マコノヒーが演じる、酒とドラッグと女に溺れる蕩けた人生を全うする、天才詩人ムーンドッグの、最初から最後までピュアな酔いどれ人生を美しすぎるカメラワークで描ききった、カルトな一本。
©️2019 LFM DISTRIBUTION, LLC
デビュー作が素晴らしすぎた、究極の一発屋詩人の酒浸りの人生
主人公のムーンドッグは、デビューと同時に傑作をリリースして天才詩人の名を欲しいままにしたが、それ以降まったく作品を出していない。
謎に大富豪の奥さんのカネを費って、太陽と海の中で酒とドラッグと女を楽しむ、放蕩人生を送っていた。妻は妻で、ムーンドッグの悪友ランジェリーとの情事を楽しみ、ムーンドッグの放蕩を赦すどころか、その世界の住人でいることに満足している始末だった。
しかし、2人の娘さんの結婚式の夜、ムーンドッグの妻が急死し、ムーンドッグは1年以内にデビュー作を超えるような詩作をリリースしなければ、妻の遺産を受け取る権利を失う羽目になる。さらに、その作品を作り上げるまで、1ドルたりとも遺産を受け取ることはできない。
突如、一文なしになったムーンドッグは、誰の支援もなしに生きていかなければならなくなった。
Beach Bum(ビーチバム)とは
本作のタイトルとなっているビーチバムとは、ビーチでフラフラしている遊び人のことを指すらしい。サーファーなどを多少の悪意をもって揶揄する時にも使うらしいが言う方も言われる方もそれほど強い意味を込めて非難したりされたりの使い方はされていないようだ。
タイトルの通り、主人公の詩人ムーンドックは常に酒かドラッグに酔いどれているし、太陽と波を愛してビーチから離れようとしない。金はないので友人らを頼って無軌道な生き方を続ける。もちろんタイプライターに向き合って詩作を行ったりもするが、紡ぎ出す言葉に悩む様子は一切ない。
つまり本作には、明確なストーリーはなく、ただ妻のカネで安楽な酔いどれ生活を続けてきた男が、切迫詰まったときにどういう行動をとるのかを追うだけの映画だ。日本で言えば、遺産を受けとる条件としてフーテン生活をやめろと言われた寅さんがどんな行動をとるのか?と問うのに近いと思う(ムーンドックは寅さんよりはだいぶ乱れた、そして楽しげな生活スタイルだと思うが)。
少しネタバレになるが‥
本作でムーンドックが妻の死後一年位内に試作を出版したら受け取れる遺産は、なんと5000万ドル。日本円にして約60億円(1ドル120円で計算)だ。
生活をあらためてスーツでもなんでも着こなしてみせる、とそれまでの人生をリセットしようと誰もが思える額だが、ムーンドックは結局そんな大金には興味がなく、金はなくとも楽しく遊びビーチで生きていくことを選択する。金なんか関係ねえとうそぶける人は多くても、目の前に札束を積まれて目の色を変えない人はあまりいないと思うが、ムーンドックには本当に金などなんの意味もないのだった。
本作は、そういうムーンドックの正真正銘破天荒な、ある意味パンクな生き方を淡々と描く。肯定も否定もせずに。
痛快ではあるが、何か教訓めいたメッセージを受け取りたい人には向いていない映画だ。カネがあろうがなかろうが、俺はビーチバム、それ以上でもそれ以下でもないよ、とうそぶけるひとだけに見てほしい映画だと言えるだろう。
小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。
ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。