Mr.Bike BGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第82話「眩しき流れに」より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集:楠雅彦@dino.network編集部
日帰り温泉にきたソノミ
私、ソノミ。覚えてないかもしれないけど、炉煎のマスターは私の実のおじいちゃん。
松ちゃんには炉煎でも会ったけど、その前には竹藪に絡んで身動きできなくなってたところを救ってもらった借りがあるわ。
つまり、気にはなるけど、惚れたとかそういうんじゃない。そういうんじゃないけど、気にはなるのよ、あのおっちゃんが。(幾つ離れてると思ってんのよ、私とさ!)
自分で言うのもなんだけど、私相当イケてる。だから黙っててもオトコが寄ってくんのよ、マジうざい。
同じバイクなんだからちゃんとついてきなよって感じ
今日もさ、日帰りで温泉に入りにきたら、ヘルメット提げた変な奴が声かけてくんのよ。
「バイクですかあ」てさ。
偶然だけど、同じBMWのバイクでさ、オトコってそういうとこめざといじゃん?コラいける!と思ったのかね。
運命的!とかぬかしやがんの。「いっしょに走りましょう!」とかいうから、ついて来られるならねとばかりにいつもの調子で飛ばしたら、あっという間にぶっちぎっちゃって。
オンナ口説くなら、バイクの腕をもうちょい磨いてからにしなよって感じ。胸くそわるいっ。
モテすぎるのも困るんだよ、マジで
オンナならさ、ブスより可愛い方がいいのは当然じゃん?だけどさ、モテようと思ってオシャレしてるわけじゃないんよ、自分が好きなカッコしてるだけじゃん?それをオトコが気にいる気に入らないは勝手だと思うんよ。
私、夜はママの店(ナイトクラブ)で歌ってるんだけどさ、最近サクラバって奴が頻繁に来るんでもうホントうざいのよ。音楽プロデューサーか何か知らないけどさ、松ちゃんの古い知り合いらしくて、松ちゃんの過去の話を聞いてもないのにいろいろしゃべってくるのよ、ホントうざい。
変なバイクには追っかけられるし(カンタンにチギッたけどさっ)、クラブに歌いに行けばサクラバいるしさ、最近 マジでめんどくさいことばかり。
「ねぇ松ちゃん、私も引越してきていい?」私は釜の薪作りに精を出す松ちゃんの背中に声をかけた。別に先に住み込んでいるリナに張り合うつもりじゃない。男のドヤに住み込めば、少なくとも家にまでオトコに押しかけられる心配はしなくていいと思ったからだ。
「シロもいいかって」そんな私の気分を察したのか、リナが言った。シロは炎天下で倒れて入院した大家のおばあちゃんの犬だ。おばあちゃんがいない間、いつもこの辺りにいるのは、シロも松ちゃんのことが好きなのだろう。あ、いや、私もそうだと言ってるわけじゃないからね!
楠雅彦 | Masahiko Kusunoki
車と女性と映画が好きなフリーランサー。
Machu Picchu(マチュピチュ)に行くのが最近の夢。住みたいぜ!