2013年以来の敗北(ドミトリー・ビボル戦)からの完全復活を賭けて
そのケレン味のない戦い方で,世界的な人気を誇るカネロ(シナモンの意味。メキシコでは珍しい、赤毛系の彼の髪色からつけられたニックネーム)だが、ビボル戦でのあとに宿敵ゴロフキンを判定で退けたものの、完全復調とは言えず、かつてはパウンドフォーパウンド(体重差を考えなければ最強のボクサーと思われること)の常連であり世界で最も影響力のあるボクサー、いやアスリートと目されてきた彼の商品価値に翳りがみえ始めていた。
その悪評を、跳ね返すだけの試合ぶりを今回の一戦でみせることが彼の使命であり、全世界の(特にヒスパニック系の)カネロファンの期待だ。
ビボルに敗れたのは、体格差のせいかもしれないし、カネロが拳を傷めていた?からとする声もあるが、今回の試合はカネロが4団体(WBA、WBC、IBF、WBO)のベルトを持つ、スーパーミドル級の試合であり、カネロにしても言い訳があまり効かない闘いである。
試合展開→カネロの判定勝ちながら カネロの強打を耐え抜いたライダー
ジョン・ライダーはサウスポー、カネロはオーソドックス。ともにいわゆるボクサーファイターだ(ボクサーのタイプ≒戦闘スタイルは、大別して 脚を使い距離とって戦うアウトボクサー型と頭をつけて近距離での打ち合いを好むインファイター型、そしてその両者の中間的なスタイルの、ボクサー型の三つだが、ボクサー型でも特に積極的なタイプをボクサーファイターと呼ぶ。焼肉でのミディアムレアのようなものだ)。
2人とも攻撃偏重、手を出すタイプ、つまり比較的かみ合う。KO必至の試合になると思われた。
そしてその見込み通り両者は1ラウンドから互いにプレッシャーを掛け合い、前に出る。いつものように固い守りからボディショットを多用するカネロに対して前腕をやや垂らしながらワンツーを放つライダーだが、2ラウンドには鼻血?と思われる鮮血で顔が真っ赤になり、徐々に後退やクリンチが目立つようになる。
そして、3ラウンド、カネロが放ったワンツーにライダーがダウン。
しかし、カネロ・アルバレスという世界的スターとのビッグマッチの切符を得た幸運の意味を明確に理解しているライダーは、深いダメージ を負いながらも立ち上がり、死力を尽くして反撃する。
試合全体を見るに、明らかにライダーに勝ち目はないのだが、とにかく手を出すし、闘志あふれる姿勢を崩さないので、レフェリーも止めようがない。むしろ、幾度となく倒しにかかるカネロの強打を耐え抜くライダーの脅威的なタフネスは、死んでもノックアウトされてなるものかという漢の気迫を感じさせられて、頭が下がる想いがする。
カネロとしては、KOして明確な勝利と復活を印象付けたいところだったと思うが、今回はライダーの気力が勝り、3対0の圧勝ながら、結局判定による決着となったのだった。
カネロの復活はなった?
試合全体として、カネロは全く危なげはなかった。両腕を高く硬く固めた防御(それに加えてヘッドスリップやヘッドアウェイなどの高度なディフェンステク)は健在だし、そこから放たれる強打も、上下の打ち分けも巧みで確かなテクニックに裏づけられたものであると思えた。
その意味では、倒せはしなかったものの、カネロの復権は為ったと言ってもいいかもしれない。だが一方で、世界的スターになったカネロの試合は残りあと数回だけだろうし、その相手に選ばれる幸運を、単に一時的な金銭価値(試合のファイトマネーと、PPV=ペイパービューのシェア)に置き換えるのではなく、ネクストチャンス(≒自身の商品価値の向上による次戦以降のチャンス)を生み出したいと考える野心的なボクサーたちとの戦いは、カネロにとってますます厳しいものになるに違いない。
この意味で言えば、ジョン・ライダーを倒しきれなかったカネロの力を、“衰えた”と見たり、まだ完全復活したわけではないというやや冷ややかな目を向ける者も、少なからずいるかもしれないと感じた。
小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。
ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。