現代のスポーツカーを代表するのが「スーパースポーツカー」と呼ばれるモデルたちだ。その中でも斬新なコンセプト、そして研ぎ澄まされた機能性を実現したマクラーレンこそいまの時代を象徴する存在だといえる。570Sスパイダーでその真価を実感してみた。(文:大谷達也/写真:小平 寛、永元秀和)

刺激と安心感のバランスを巧みに実現するボディ構造

画像: スパ西浦モーターパークのテクニカルなコーナーを抜けていく。あたかも、ドライブする楽しさが伝わってくるかのようだ。

スパ西浦モーターパークのテクニカルなコーナーを抜けていく。あたかも、ドライブする楽しさが伝わってくるかのようだ。

前述のとおりマクラーレンからドライバーに届けられるインフォメーションの量は恐ろしく多い。だからといって300km以上走り続けてもさほど疲れないのは、無用なインフォメーションはすべてシャットオフして、必要な情報もドライバーを疲れさせるギリギリ一歩手前のところで抑えているからに違いない。ここからほんの少しでも情報量を増やしたらドライバーは疲れるだろうし、ほんの少し減らしたら物足りなく感じられるだろう。とにかく、その設定は絶妙としか言いようがないのだ。

画像: 取材車は、豊富に用意されるオプションを潤沢に装備したカーボンファイバーインテリア仕様。各種のスイッチ類は機能的に整理されているので操作しやすい。

取材車は、豊富に用意されるオプションを潤沢に装備したカーボンファイバーインテリア仕様。各種のスイッチ類は機能的に整理されているので操作しやすい。

この刺激と安心感の絶妙なバランスを生み出す上で重要な役割を担っているのが、マクラーレンの全モデルに採用されているカーボンモノコックであることは疑う余地がない。軽量かつ強靱なカーボンモノコックであれば、微細な振動まで伝達するには理想的。その上で、不要な情報をカットする一種のフィルターが振動系の各所に収められているのだろう。結果として、マクラーレンが理想とする振動伝達系が実現できているように思う。

サスペンションのセッティングもマクラーレンのこうした特質を生かす上で大いに役立っている。もちろん、超高性能なスーパースポーツカーであるのだから、足まわりがソフトということはあり得ない。だが、鋭い衝撃を和らげるしなやかさは備えているので、路面のつなぎ目や段差で伝わる振動もさして不快とは思えない。

それ以上に重要なのが、ボディをフラットに保ち続けてくれることだ。このため、身体が前後に揺すられたり視線が不用意に上下することもない。したがって肉体的な疲労は最小限に抑えられ、ロングドライブ中も容易に集中力を保っていられるのである。

視界が良好なこともマクラーレンの各モデルに共通する美点である。とりわけ前方は自分のつま先が見えるのではないかと思えるほど、直前までよく見える。

画像: フロントの車高リフト機能はオプション設定だがこれがあると、日常使用には重宝する。

フロントの車高リフト機能はオプション設定だがこれがあると、日常使用には重宝する。

こうしてマクラーレンはスポーツカーとして第一級の走りを示すだけでなく、日常的な使用条件まで考慮した熟成が図られている。それも小手先の技で実現しているのではない。たとえば、前述したカーボンモノコックのように、コストや手間を惜しまず、最上級の素材とテクノロジーをふんだんに使用した基盤を用意し、それを鋭敏な人間の感性で徹底的に磨き上げたスーパースポーツカーが、マクラーレンなのである。

かつては〝視界が良すぎると運転していて疲れる〞といったことがしばしば言われたが、それは視点の持って行き方が間違っているからに他ならない。ドライビング中、とくに高速道路上では視点をできるだけ遠い前方に持っていくのが基本。そうすれば遠くの危険がいち早く察知できるので余裕を持って対応できるし、すべての操作も穏やかになるはず。逆に視界が限られていると車線変更などの際に神経を多く使うことになり、余計に疲れる。私は、マクラーレンのアプローチが正しいと信じるひとりである。

画像: 絶対的なスピードの高さではなく、クルマと道とのコンタクトを体感しながら走れる楽しさが大きな特徴。

絶対的なスピードの高さではなく、クルマと道とのコンタクトを体感しながら走れる楽しさが大きな特徴。

そしてその精緻な作りと圧倒的に高い精度感は、マクラーレンのハンドルを握っている間、ずっと感じ続けることができるのだ。〝ああ、いかにもいい機械を操っている〞という至福の喜びが常に全身を満たしてくれる。これぞ、まさしく〝心ときめくスポーツカー〞といえるだろう。

一般道そしてサーキットでも感動的なほどの喜びがある

そんな570Sをサーキットで走らせて面白くないはずがない。優れた伝達系からの情報を駆使してタイヤの状態を捉え、正確極まりない操作系を繊細にコントロールすれば、テクニカルなスパ西浦モーターパークが舞台でも自在にコーナーを走り抜けていける。アクセルペダルのわずかな操作を捉えて前後の荷重移動が起こり、これが走行ラインの微調整に役立つからだ。

ハンドルの操舵力が重めのために感じにくいかもしれないが、フロントノーズの動きは一切の慣性力を感じさせないほど軽快だ。

画像: 今回のサーキット走行は、タイムアタックが目的ではなく、ハイスピード領域でのドライビングを安全に確認するためのもの。それでも、ポテンシャルの高さは十分に伝わった。

今回のサーキット走行は、タイムアタックが目的ではなく、ハイスピード領域でのドライビングを安全に確認するためのもの。それでも、ポテンシャルの高さは十分に伝わった。

しかもトラクションが圧倒的に高く、タイトコーナーの立ち上がりでもクルマを確実に前進させていく。タイムが1分7秒台に留まったのは、自己規制で〝タイヤをすり減らさない〞と決めていたからで、これを外せばあと3秒や4秒は簡単に短縮できたはずだ。

サーキット走行を終えてからの帰り道、私は570Sスパイダーのルーフを開け放って新東名高速の120km/h規制区間を走り続けた。サイドウインドウと左右シートのヘッドレスト間を埋める小さなリアウインドウを閉めれば、額にほどよく感じる程度にしか風は巻き込まない。日没が迫ると気温がグンと下がったが、エアコンを適切に使えばジャケットなしでも寒くはなかった。それより、遠く後方の富士山近くに沈み行く太陽をときおりバックミラーで眺めながらのクルージングは、快適というより感動的ですらあった。

画像: 一般道そしてサーキットでも感動的なほどの喜びがある

マクラーレンは、オープンエアモータリングの喜びをハンドリングや乗り心地を一切犠牲とせずに実現している。これもカーボンモノコックの恩恵だが、なんとも贅沢な体験という他ない。

570S スパイダー
車両データ
ボディカラー:バーミリオンレッド シ ート カラー/インテリアカラー:ジェットブラック&ストーングレー/カーボンブラック
試乗車装着オプション
エリートペイント(バーミリオンレッド)618,000円(税込)、カーボンファイバーエクステリアパック1(グロスカーボン)563,000円(税込)、カーボンファイバーエクステリアパック2(グロスカーボン)1,525,000円(税込)、カーボンファイバーインテリアパック(サテンカーボン)957,000円(税込)、セキュリティパック(車両リフト、パーキングセンサー[フロント&リア]、リアパーキングカメラ、室内専用ボディカバー)671,000円(税込)、スポーツエグゾースト586,000円(税込)、ソフトクローズドア108,000円(税込)、シートヒーター&電動メモリーシート473,000円(税込)、Byマクラーレンデザイナーインテリア(スポーツ)446,000円(税込)、ライトウエイト鍛造ホイール(10スポーク)467,000円(税込)、ダイヤモンドカットホイールフィニッシュ269,000円(税込)、スペシャルカラーブレーキキャリパー(レッド)158,000円(税込)
車両価格28,988,000円(税込)+オプション価格6,841,000円(税込)=合計35,829,000円(税込)
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●Engine
型式・・・・38JBAE[*1]
種類・・・・V8DOHCツインターボ
総排気量cc・・・・3799
ボア×ストロークmm・・・・ 93.0×69.9
圧縮比・・・・8.7
最高出力kW(ps)/rpm・・・・419(570)/7500
最大トルクNm(kgm)/rpm・・・・600(61.2)/5000-6500
燃料・タンク容量L・・・・プレミアム・72
●Dimension&Weight
全長×全幅×全高mm ・・・・4530×1910×1190[*1]
ホイールベースmm・・・・2670
トレッド前/後mm・・・・1673/1618
車両重量kg・・・・1490[*1]
最小回転サークルm・・・・12.4
ラゲッジルーム容量L・・・・F:150/R:52
●Chassis
駆動方式・・・・MR
トランスミッション・・・・7速DCT(SSG)
変速比1/2/3/4・・・・3.981/2.613/1.905/1.479
5/6/7・・・・1.161/0.906/0.686
最終減速比・・・・3.308
ステアリング形式・・・・ラック&ピニオン
サスペンション形式 前 ・・・・ダブルウイッシュボーン
          後・・・・ダブルウイッシュボーン
ブレーキ  前/後 Vディスク/Vディスク
タイヤサイズ   前・・・・225/35R19
         後・・・・285/35R20
●Price
車両価格28,988,000円(税込)
[*1]自動車検査証の表記に準拠

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