すべてイチからのスタート!
ホンダとBBSの共同開発、その目的は「運動性能の向上を目指し、速さと軽さを研ぎ澄ます」こと。そのための目標は「バネ下10kgの低減」だ。
「試行錯誤の繰り返しでした」とは開発担当の竹内 治さん。ここからは、専用鍛造ホイールの開発について紹介していこう。
試作前の徹底した解析
まずホンダ側からホイールデザインの初稿をBBSに提出。そこで強度・剛性を見るのだが……。
「最初は強度NGを連発でした。デザイナーも『鍛造』に期待を込めて、スポークを捻らせたり、めちゃくちゃ細く描いてみたり(笑)。でもそのデザインをベースに、どうやって作っていくか?をBBSさんは考えてくれて開発が始まったんです」
ホイールの中央・五角形の部分は、レーシングカーのセンターロックをイメージ。スポークは、見る角度によって変化がでるように捻じれが加えられている。
「初期のデザインだと、スポークの捻じれている先に応力が集中してしまって強度的には難しいと。これを解決するため、ナット周りに少々肉を盛りタイヤからの力を受け止めるようにしました」
昔であれば、デザインが決まり強度も規定値を越えていれば、すぐに試作品作りへと進むところだ。しかし、現在のホイール造りはそう単純ではない。
「剛性(物体の伸び・縮み・変形のしにくさ)の求め方によって、クルマの乗り味が大きく変化することが分かっています。そのため、どういう方向性でホイールを仕上げていくかの目標を決める必要があるんですね」
開発ホイールとはまったく違う別のホイールも多数用意し、あらゆる方向からシビック TYPE Rに最適なバランスを模索。そうして導き出した答えが中期モデルだ。
しかし、ここまではあくまでも解析データに基づいたもので試作品は存在しない。強度・ウエイトは目標値を達成してはいるが、実際に走ったらどうなるのか。ここからようやく走行テストが始まる。
デビューはニュルブルクリンク
「試作品を装着しての走り出しはニュルブルクリンクでした。実際にコースや一般道を走ってみると、10kgという数値以上にクルマが軽い! 鍛造ホイールでここまで変わるのか……と驚きましたよ」
しかし、なにやら頼りない。テストドライバーからも、『コーナーでこれ以上ステアリングを切っていいかどうか分からない」というフィードバックがあったという。
「試作品はもっとも軽い状態ですから、ここから調整のために削るのは強度的にNG。そのため、テストをしながら硬化パテで部分的に肉を盛り、性能の変化をチェックしていきました」
パテはアルミと同じ特性ではないため、あくまでも応急的な処置だ。しかし、どこに盛れば性能が変化するのか、というデータは取れる。
現地でチューンしたホイールをすぐに日本に送り返し、形状計測と3Dデータを作成し、最終確認を実施。
デザインと強度と剛性が高い次元でバランスしたホイールが完成した。
走行テストを経て、出来上がったホイールの重量は10.79kg。テスト前と比べると23g増ではあるが、この23gが乗り味を大きく変える結果となったという。
「走り出したときに感じる軽さ、クルマの回頭性……テスト前と後では段違いです。でも、もっとも変わったのはドライバーへの安心感ですね」
クルマの持つポテンシャルをドライバーがフルに発揮するためには、数値以上にこの“安心感”が重要となる。それを証明したのが鈴鹿サーキットでの最速ラップタイム達成だ。
鈴鹿最速ラップタイムを達成! ホイールが果たした功績とは?
2020年7月9日、完成したホイールを履いたシビック TYPE R リミテッドエディション(最終開発車両)の走行テストにて、FFモデルでの鈴鹿サーキット最速ラップタイムを達成。
タイムは2分23秒993。ルノー・メガーヌR.Sが打ち立てた2分25秒454から、1.4秒削ったことになる。
ドライバーを務めた伊沢 拓也 氏のドライビング技術、それに応えられるシビック TYPE Rの基本性能。すべてが揃ったうえでの記録だが、鍛造ホイールが果たした功績は非常に大きい、と竹内さん。
「伊沢さんもインタビューで『安心して切っていける』と話していましたが、ステアリングに伝わるドライバーへのインフォメーションは、ドライビングにとってはとても重要です。すべてをクルマに任せても大丈夫と感じられるかどうか。今回共同開発した鍛造ホイールにはその安心感があるんです」
試作した中期モデルは、軽さや強度はよくても、その安心感の部分が欠けていた。だからこそテストドライバーは「これ以上曲げていいのか……」と難色を示した。
「不安や迷いは走行に直結します。中期モデルのテストではそれは顕著でした。クルマの性能で曲がらないのではなく、ドライバーが曲げれると思えないから曲がっていかないんです」
最終モデルへ至るまでの調整は、数値以上にそうした感覚の部分も重要視されていた。
「出来上がったホイールのテストドライブで、僕も柿沼さんの横に乗ったんですね。すると、クルマがコーナーの外を向いているか、コーナーに向かっているのかというのが明確に分かる。タイヤからホイールへ伝わる情報がすごいんです! 今回の記録は、ホイールの力あってこそだと思います」
国内200台の限定生産! いまから手に入れるには10台の抽選販売のみ
シビック TYPE R リミテッドエディションは国内で200台、世界で1000台の限定生産だ。すでに国内販売分のシリアルナンバー11〜200番に関しては販売終了済み。
いまから手に入れるには、シリアルナンバー1〜10番の抽選販売(2020年11月9日・月の23:59までに申込)しかない。(詳細はシビックTYPE R公式ページにて)
「限定数なので、すべてのお客様に……というわけにはいかないのが心苦しいですね。でも、このクルマに込めた僕ら開発陣の想いは、この記事や映像などから少しでも感じてもらえたら嬉しいです」と竹内さん。
“本当につくりたいクルマ”を追い求め、TYPE Rを作り続けるホンダのエンジニア達。そのモノづくりへの情熱に共感し、共に歩むことを決めたBBSジャパン。
究極を求め走り続ける両者が交わった先に、史上最速という結果を出した1台のクルマが完成した。
今後、約1000人のオーナーはこのクルマと共にどんなストーリーを紡ぎ出していくのか。今から楽しみでならない。
Honda×BBS シビックTYPE Rコンセプトムービー