新発表のiPhone 11 Proシリーズの新色。正三角形を描くように配置された 3つのレンズは、あたかも1つのレンズであるかのように映像を捉える。
2019年9月に発売されたiPhone 11、11 Pro、11 Pro Maxは、まだその全貌を見せていない。超広角カメラや、新たに搭載されたU1チップは、これまでのiPhoneになかった新しい使い方を切り拓くものだ。これらの機能が本領を発揮し始めたとき、iPhone XS/XR以前の世代のiPhoneからは見えなかった、まったく新しい展望が拓けてくる。

これからのiPhoneの新しい空間認識:U1チップ

画像: アップル公式ページでのU1チップの説明 新技術を応用した機能としては今のところiOSアップデートによるAirDropの進化だけが紹介されている(OSアップデートで提供予定) www.apple.com

アップル公式ページでのU1チップの説明

新技術を応用した機能としては今のところiOSアップデートによるAirDropの進化だけが紹介されている(OSアップデートで提供予定)
www.apple.com

iPhone 11世代機には、もう1つ、それ以前のiPhoneにはない新技術が搭載されている。UWB(Ultrawide Band/超広帯域無線通信)という技術の利用を実現するU1チップの搭載だ。

アップル社は、このチップは「空間認識」のためのものだとしている。

元々は無線LANに代わるワイヤレス通信技術として期待を集めていたUWB技術だが、現在は10cm前後の正確さで物の位置を特定する技術として大きな注目を集めている。

スマートフォンがいまどこにあるかという位置情報は、屋外にいる間はGPSを使うことで誤差にして街路1、2本くらいの距離という精度で特定できる。

しかし、屋内となると話は別だ。これまで美術館の案内や、お店での商品説明など、さまざまな企業が屋内LBS(Location Based Service=位置情報)の実験サービスに取り組んできたが、常套手段だった無線LANを使った位置特定も、Bluetooth技術を使ったビーコンと呼ばれる装置による位置特定も誤差が大きく、なんとかどの部屋にいるかくらいの精度で情報提供ができる……という程度だった(電波のゆらぎによって、まだ次の部屋に移動していないのに、次の部屋の解説が流れてしまう、など我慢をしないと使い物にならない精度だ)。

これに対して壁なども通過して伝わるUWBでは、建物の建材や部屋の大きさで変わる電波の反射や干渉などに関係なく10cm程度の精度で位置を特定できる。

こうなってくると、これまで絵空事だった屋内LBSも、かなり現実味を帯びてくる。

ただし、UWBは単体で自分が地球上のどこにいるかを割り出してくれる技術ではなく、あくまでも近くに他のUWB機器があったら、そことの相対的な向きや距離がどれくらいかを割り出してくれる技術に過ぎない。なので、UWBに対応したからといって、今すぐアップルマップの屋内ナビ機能の精度があがる、ということではない。

では、この技術をアップルはどのように活用するのか。同社は9月25日にリリースされたiOS 13.1アップデートでAirDrop機能を改良した。UWBに対応した(U1チップを搭載した)アップル製品同士であれば(執筆時点ではiPhone 11世代機しかない)、AirDropでファイルを送信する先を本体の向きを変えて選べるようになった。

UWBがもたらす無限の可能性

例えば目の前にiPhone 11を持ったAさん、Bさん、Cさんが立っていたとしよう。自分がiPhone 11でCさんの方を向きながらAir Drop送信の準備をすると、iPhoneの画面ではCさんが自動的に選ばれ大きく表示される。

いまのところ、アップル社が公式に認めているU1チップの機能はこれだけだが、今後UWB規格が広まれば、いろいろな可能性が拓けてくる。

今回のiPhoneの発表前に、アップル社が失せ物防止タグを発表するという噂があったが、そうしたものも可能だろう。UWB発信機能を持ったネームタグのようなものを財布など大事なものに付けておけば、行方不明になった場合でもiPhoneを使って簡単に探せるようになるわけだ。

また、いわゆるIoT機器の設定なども大きく変わるかもしれない。

現在はwi-fiやBluetoothで接続後、iPhone画面上で機器名を選んで行うのが普通だ。だが、もし今後、IoTが急速に増え、家中の電球がすべてスマート電球などで置き換わったと想像して欲しい。 1つひとつの電球の名前を覚えておいて、それを画面から選ぶのは大変だが、スマート電球にUWB通信の機能が内蔵されていれば、赤外線リモコンのように設定を変えたい電球の方にiPhoneを向けるだけで設定変更が可能になる。例えばデジタルカメラやワイヤレスヘッドホンなどにしても同様で、iPhoneの向きを変えるだけで自動的に機器が選ばれてくれたら操作性は激変するだろう。

残念ながら、このU1チップが内蔵されているのはiPhone 11と11 Pro、11 Pro Maxの3機種だけで、同時に発表になった新iPadやApple Watch series 5には搭載されていない。しかし近い将来、このU1やそれに準じたUWB通信可能なチップが広がることで、iPhoneと周辺環境とのインタラクションが激変する可能性があることに夢が膨らむ。

iPhone 11世代機は、これまでのiPhoneは備えていなかった“周囲のものを超広角で捉える目”と、“周囲のものの位置を正確に捉える感覚”を身につけた最初のiPhoneであり、iPhoneの新たな役目、使い方を切り開く可能性を秘めた製品なのだ。

画像: iPhone 11世代に隠された未来へのタネ

林 信行 | Nobuyuki “Nobi” Hayashi
ジャーナリスト/コンサルタント。我々の社会や生活を変えるテクノロジーやデザインを模索し発信。ジェームズ・ダイソン財団理事。著書、連載多数。
Twitter:@nobi

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