こんにちは、恐竜おねえさんこと生田晴香です。今回は50年以上前に2メートルという長さの前あしだけが発見された謎の恐竜「デイノケイルス」に、新たな体の部位化石が見つかり色々面白い事がわかってきました。2019年夏秋に行われた「恐竜博2019」でも展示された「デイノケイルス」の迫力があまりにもすごかったので紹介します!

連載コラム「生田晴香、恐竜と生きる」。福井恐竜博物館 公認恐竜博士、古生物学会友の会・恐竜倶楽部メンバーでもある自他共に認める恐竜ラバーのタレント生田晴香が、恐竜の素晴らしさを隅から隅まで語り尽くす。壮大な歴史とドラマ、未解明の不思議が交差する魅惑の恐竜ワールドへ、ようこそ。- dino.network編集部

「恐ろしい手」の名を持つ恐竜

デイノケイルスという恐竜の模式種はデイノケイルス・ミリフィクス(Deinocheirus mirificus)で、デイノケイルスは「恐ろしい手」、ミリフィクスの意味は「変わった」を意味します。最初は1965年モンゴルのゴビ砂漠で、モンゴルとポーランドの共同発掘隊により発掘されました。

画像1: 「恐ろしい手」の名を持つ恐竜

その部位というのが前あしのみで他は歯すら見つかっておらず、肩から手の長さがなんと2.4m(!)にもなります。上の写真からも、かぎ爪を持つ恐竜だという事がわかりますね。

獣脚類でこんなに長い前あしを持つ恐竜はいません。獣脚類とは何?という方はティラノサウルスやラプトルみたいな肉食恐竜みたいな感じだとイメージしていただけたらと思うのですが、そういう恐竜は手が短いイメージがありますよね。

骨の形からティラノサウルスに近い恐竜では?という考えもありましたが、前あしの長さから全体の大きさを推定するとティラノサウルスの3倍くらいの大きさになってしまいます。

とてつもなく謎の恐竜です。まさに変わった恐ろしい手…恐竜と学名が合ってて覚えやすいですね。

ちなみに、3本の手の骨の中足骨がほぼ同じ長さであることから、足が速いオルニトミムスという恐竜などがいるオルニトミムス類である可能性も指摘されていました。

生田晴香は初めて手だけの展示を見た時「本当にこんな恐竜いるの?」という感じで全然恐竜の全体像が想像できなく「くーるーきっと来るー」的な音楽が聞こえてくるような……そう、まるで貞子を彷彿とさせるような恐怖を感じたことを覚えています。だって手だけですよ?ホラーかよ感満載で震えました。

画像2: 「恐ろしい手」の名を持つ恐竜

デイノケイルスについての論文を発表された方は、テレーザ・マリアンスカさんとハルシュカ・オスモルスカさんという2人のポーランドの女性研究者で、1970年初めて恐竜論文を新種記載した女性でもあります。2人はその後もたくさんの恐竜を研究し新種記載、命名していきました。憧れますね。

盗掘ダメ、ゼッタイ!

さて、時は過ぎて2006年のお話に移ります。

韓国の出資により集められた世界中の研究者により、国際共同調査が5年間行われ、2006年、2007年、2009年にそれぞれデイノケイルスが発見されたのですが、手放しで喜べない現実がありました。

というのも、2006年は盗掘現場で子どものデイノケイルスを発掘し、2007年は最初にデイノケイルスが発見された場所へ掘り残しの調査を行なった結果 残骸が発見され、2009年はまたもや盗掘現場で大人の頭と足以外のデイノケイルスが発掘されたのです。

盗掘現場とは、化石を乱暴に掘り起こし、高値で取引される頭骨や手足だけ持って行ってあとは売れないだろうとポイっと投げ捨て壊したりしちゃう人によって荒らされた場所なんです。貴重な化石を!(盗掘は違法です!)

つまり、国際共同調査で発掘されたのは元々あった骨の一部に過ぎず、頭の骨などは盗掘者によって持ち去られ、どこかに売られてしまったということです!

もっと言うと、盗掘する人間は化石を持ち帰る為に使う石膏の残骸や強力接着剤、ウオッカの空の容器を平気で盗掘現場に捨ててったり、オボという石を積み上げて安全を祈る儀式(モンゴルの文化)をして、モニュメントに酒ビンと小額の紙幣を残したりしていきます。

オボ

ja.wikipedia.org

法を犯す人間が儀式とか本当に何を考えているのやらという感じで、日本ならサイコパスとしか思えませんが、その痕跡からいつ頃どこの国の人間が盗ったかは推理する事もできます。「犯人はおまえだ!」と、どんどん捕まえて化石を取り戻しこんな酷いことをする人間がいなくなる世界になってくれる事を願うばかりです。

盗掘された部位はベルギーに

では、盗掘されたデイノケイルスの頭などはどこに売られてしまったのでしょうか。そもそも見つかってない…わけではなく、手なら手首から先、足は足首から先だけちゃんと狙われておいしいとこどりされていますから、誰かの手に渡っているはずです。

研究者が探し求めていたところ、2011年になんと!ベルギー王立自然史博物館のゴドフロワ博士から、デイノケイルスの頭骨、左手、両足の骨をヨーロッパの化石コレクターが持ってるよ!とのお知らせが!

イ・ユンナムさん、小林快次さん、フィリップ・カリーさんがベルギーに集まり確かめてみると、2009年に盗掘現場から発見したデイノケイルスの見つかっていない部分と一致し、あの時消えていた部位がここにあり色々調べてみても同じデイノケイルスだという事がわかったのです!

盗掘された化石は日本に流れたりヨーロッパに流れたりもあったみたいですが…こんな事ってあるものなのですね。2009年に見つかっている化石とぴったりはまりマトリクスまで正確にかみ合ったという、嬉しい奇跡が起きたのです。

何だかんだあり最終的に盗掘された部位はモンゴルに返還されたのち研究が重ねられ、デイノケイルスはどんな恐竜なのか、やっとわかることになったのです。

画像: 盗掘された部位はベルギーに

はたして謎の恐竜は一体どんな恐竜なのか…恐竜博2019へ行かれた方はあの迫力に驚いたでしょう。また紹介します、お楽しみに!

画像: 恐ろしい手を持つ謎の恐竜・デイノケイルスと盗掘者

生田晴香 | Haruka Ikuta
恐竜タレント。TV、CMのほかモデルとして活躍中。福井恐竜博物館の公認恐竜博士で恐竜検定所持。恐竜トークショー、クイズ、鳴き声コンテスト審査員。古生物学会友の会&恐竜倶楽部メンバー。恐竜のうた「ダイナソーDANCE」監修。実は元あやまんJAPAN。
YouTubeちゃんねる「恐竜わっしょい!」始めました。

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前回の「生田晴香、恐竜と生きる」はこちら

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