年間100本以上の映画作品を鑑賞する筆者の独自の映画評。今回は、ジョージ・ウォーカー・ブッシュ政権時の副大統領(在任期間2001年1月20日 - 2009年1月20日)ディック・チェイニーの半生を描いた『バイス』。
9.11のテロ勃発を契機にかつてない強大な権力を握った、史上最強・最凶の副大統領と呼ばれるにいたった実在の政治家ディック・チェイニーとはどんな男だったのか。
ダークナイトシリーズでバットマンを演じたクリスチャン・ベイルが本物そっくりにチェイニー役を演じきっている迫真の作品だが、ブラッド・ピット率いる制作会社プランBがプロデュースし、『マネーショート』の制作チームが制作担当していることでも話題に。
画像: 『バイス』4.5(金)公開/本予告《本年度アカデミー賞受賞!》 youtu.be

『バイス』4.5(金)公開/本予告《本年度アカデミー賞受賞!》

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悪意なき確信犯

は9.11のテロ事件を契機に、大統領(ジョージ・W・ブッシュ)を差し置いて陣頭に立ってテロ対策に力を注ぎ、テロリスト支援や大量破壊兵器保有の証拠をでっち上げて?イラク侵攻の正当性を世界各国の元首たち(日本の小泉純一郎元首相や英国のブレア元首相など)の支持を取り付けることにも成功した、まさに影の大統領とさえ呼ばれたディック・チェイニー副大統領の姿を通じて、米国民主主義の脆弱な一面を余すところなく露わにした作品。
一般大衆がなかなか知り得ない恐ろしい真実を暴いていながらも、全体的にはコミカルな表現方法を採っていることで、観ている側もシリアスになりすぎずにいられるが、観賞後にはその恐るべき内容に暗澹たる気分を味わざるを得なくなる、強烈なインパクトを持つ、少々グロテスクな一本だ。

大統領府に絶大な権力を集中させるべきという、一元的執政府理論の信奉者であるディック・チェイニーは、権力志向が高く頭脳明晰な野心家の妻リンの内助を得て、ホワイトハウス内で着々と高い地位を固めていく。
次女の同性愛嗜好を政敵に利用されることを恐れて、政治権力の頂点である大統領職を目指すことは諦めて一度は政治から身を引くものの、政治家経験の浅いジョージ・W・ブッシュからのリクエストを引き受けて、ブッシュの当選とともに副大統領に就任する。

そして彼は、就任一年目の2001年9月11日に起きた未曾有のテロ事件を契機に実権を握ることに成功すると、テロ撲滅の大義を掲げながら自らの権力を強める工作に没頭し始めるのだった。

金を稼ごうとか、強権を使って権勢を楽しもうといった欲望の達成ではなく、ただひたすら権力者であろうとする純粋な上昇志向を持つディック(妻のリンも同様、いやむしろ焚き付け役)の姿は、恐ろしく かつ諧謔的であり、まさに悪意なき確信犯。さすがは『マネーショート』のチームの手による作品と思える出来栄えだ。

実話をベースにしながらも各所に見られる皮肉な誇張表現がうっかり笑いを誘うし、ディック役のベイルも妻リン役のエイミー・アダムスと、そして実際以上?にバカっぽいジョージ・W・ブッシュ役のサム・ロックウェルも、とにかく登場人物の多くが実際の人物の見た目を実に見事に再現していて、シリアスな展開を追いながらも思わずにやけてしまう、素晴らしい出来映えなのである。

とはいえ、この作品、平成生まれ以降の若い世代にはややわかりづらいだろう。登場人物を実物に寄せていることと、当時の政治背景を実際に知る者には非常にリアルに描いていることが、かえってそれらを知らない世代には分かりづらくなっている気がする。逆にいえば、そういう若者世代からの共感は全く狙っていない作品であると言えるかもしれない。

そのあたりは、同じく少し前の時代の栄華や挫折を鮮やかに描きながらも現代的に作り上げた『ボヘミアン・ラプソディ』にアカデミー賞レースでは遅れをとったのも、詮方ないことかなと思う。

画像: 『バイス』が描く米国政治の脆弱さ。悪意なきディック・チェイニーの権力欲

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。

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