どうせなら最新モデルに乗りたいのが若者の常。なのになんでいまさら90年代のレトロなマシンに乗らなきゃならないんだ?
免許取立ての少年の心に、カワサキZXR250はどう映るのか—??
オートバイ2020年1月号別冊付録(第86巻第2号)「Ray it on thick」(東本昌平先生作)より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集:楠雅彦@dino.network編集部
バイクの免許を取ったばかりの少年
カワサキが超久しぶりにニィハン(250ccクラス)にマルチ(4気筒)を搭載した新型マシンNinja ZX-25Rを発表した2019年の秋、俺はバイクの免許を取った。
これは最新モデルを買うっきゃない!これからバイト漬けの毎日だ!と意気込んだ俺だったが、そろそろバイクを降りることを考え始めていた親父が“まずはこいつに乗ってみろ”とばかりに自分のバイクをあてがってきた。
そのバイクとは同じカワサキではあるものの、1989年にデビューしたZXR250だった。悪くはない、いや、ほんとに悪くはないよ。
ZX-25Rと同じく4気筒のクォーターマルチ。
249cc 4ストロークの水冷DOHC4バルブ並列4気筒エンジンは、40馬力を発生させる。140kgちょいのボディには十分すぎるパワーだ。
俺が生まれる前からずっと親父はこのバイクを大切に乗ってきた。だから申し分ないくらい調子もいい。
ただ古いんだ。俺は最新型のマシンに乗りたいんだ。そんな思いが俺の心から離れず、ZXRに跨っても気持ちは弾まないのだった。
仲間とのツーリングに出掛けた少年
案の定、仲間は「なにこの古いバイク?」という顔をした。カッコイイと褒めてくれる子もいたが、俺にはどうにもお世辞にしか聞こえない。
「なんとでも言ってくれ!」俺は煩わしさを振り切るようにZXRに跨った。
ところが、仲間と共に走り出してみると、少し事情が変わってきた。
あれ?俺って速い?
俺とZXRはまさしく今どきのバイクたちを抑えてキビキビと走る。その走りは、老いたバイクのそれではない、間違いなく現役のそれだ。
俺は走りながらZXRへの認識を少しずつ改め始めた。
とはいえ、このバイクがそのまま俺の愛車になるのか、それともやっぱり最新モデルの国内発売に心揺らぐのか、どちらになるのかわからない。
わかっているのは、クォーターマルチ最高!ということだけだ。
俺はさらに右手を捻りスロットルを開け始めたのだった。
あなたなら大切にしている何かを、息子や娘に託したい?引継いでもらいたい?
楠雅彦 | Masahiko Kusunoki
車と女性と映画が好きなフリーランサー。
Machu Picchu(マチュピチュ)に行くのが最近の夢。