90歳にして麻薬の運び屋となった男、アール・ストーンの数奇な人生。実在した老齢の犯罪者をモチーフに、クリント・イーストウッドが映画化。
監督と同時に主演をこなしたイーストウッドの淡々とした演技に、心を根こそぎもっていかれる。
画像: 映画『運び屋』特別映像 クリント・イーストウッド & ダイアン・ウィーストインタビュー【HD】2019年3月8日(金)公開 youtu.be

映画『運び屋』特別映像 クリント・イーストウッド & ダイアン・ウィーストインタビュー【HD】2019年3月8日(金)公開

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実在の老齢の運び屋をモデルとした感動作

著名な園芸家としての名声を維持することに人生を賭けてきた老人アール・ストーンは、時代の変化についていけずに90歳にして破産の憂き目に遭う。行き場を失ったアールだったが、それまで仕事にかこつけて家庭を顧みることがなかった彼を、別れた妻や娘は決して許さず受け入れようとはしない。
金もなく家族もない孤独に打ちのめされるアールだったが、園芸家として全米を車でまわりながら一度たりとも事故や違反をしたことがない、安全で適格なドライバー経験を買われて麻薬組織から声がかかり、史上最年長?の麻薬の運び屋となる。最初は一度だけと思ったアールだったが、彼からすれば簡単な仕事で大金を受け取ることができることや、誰かに必要とされることに自尊心が満たされるのを感じて、その後も度々運び屋を務めることになる。

大量のコカインを運びながら人目を引かず、次々と“安全”に運搬をこなしていくアールは図らずも腕のいい運び屋としての存在感を増していくが、その評価の高まりがやがてDEA(麻薬捜査局)の注目を集めることになる。
DEAの懸命の捜査は組織を追い詰めるが、犯罪の片棒を担いでいるという自覚はありながらも淡々と仕事をこなすアールの天然ぶりが捜査の網をかいくぐり続けていく。

しかし、そんなアールの仕事がある事件をきっかけに綻びを見せるのだった・・・・

人生の苦さに苦しみつつ淡い暖かさを醸し出す主人公アールをクリント・イーストウッド、彼を追い詰めていくDEA捜査官をブラッドリー・クーパーがあくまで自然体で演じている。

抑制の効いた演出と演技

本作は、老いて仕事を失うことの激しい痛みと苦しみと同時に、人生の黄昏において家族とのつながりが仕事よりも大事なことを気づかされるつらさと後悔を見事に描いている。
アールは(全ての時間と情熱を注ぎ込んできた仕事を失うという)大きな挫折を受けるが、それによって自分がいかに自分勝手に生きてきて、自分を大切に思ってくれる家族の想いを踏みにじってきたか、という真実に気づき激しく悔恨する。
麻薬の運び屋という非合法な仕事に手を染めるアールは、それによって得た金を家族のために使いつつ、家族との関係を修復することに務めるが、一度できた溝はなかなか埋まらない。アールは最終的に家族に許されるのだが、同時にそんな家族たちを蔑ろにし続けてきた自分の罪を自覚するようになり、自分自身を許せなくなるのである。

本作は、人生の終盤にきて初めて自分の過ちを認めて苦しむ男の哀しさと、それでも自分を許し迎えてくれる家族の愛のありがたさを、いつもどおり抑制の効いた演出と演技で描き切った傑作なのだ。

人生はトレードオフ・・・

本作のテーマというか、メッセージは自分を真に愛してくれるのは家族であり、その家族を大切にすることが人生を豊かにすることだというものだが、同時に、打ち込むべき仕事を失うことの恐ろしさをつくづく感じさせられる。

主人公のアールは園芸家として名を馳せ、そうした業界からの高い評価を受ける自分に誇りを感じながら生きてきた。老境に至って事業を失い、同時にそうした名声をもなくしたことで家族の重要さに気づくのだが(名声より家族の愛のほうが大切だと気づくのだが)、死ぬまで事業がうまくいっていたとしたら、仕事人としての名声を受け続けるほうが重要だと信じたままでいたかもしれない。

もちろん僕も家族や友人よりも仕事のほうが大切だと主張するつもりはないのだが、どちらに優先順位を置くかはその人の人生次第であるし、アールも園芸の仕事を持ち続けることができていたとしたらそもそも運び屋にはならない(金がいいからといって誇り高き仕事を捨てることは考えられない)。

本作において、主人公のアールは大切にしてきた仕事を失うことで、犯罪の片棒を担ぐ立場に身を落とし、同時に家族のかけがえのなさに気づくのだが、仕事を失わなければ、犯罪に身を染めることもないし家族を顧みるようにもならなかった。その意味で僕は、人生というものは常にトレードオフなのだなあ、と、本作に込められたであろう真の主張とは違うほろ苦さを感じたのである。

画像: 『運び屋』のクリント・イーストウッドに心を奪われる

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。

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