全ての個人データにアクセス可能な監視社会を描いた近未来SFスリラー
個人情報が電子化され、しかも視覚情報としてアクセスできる近未来。特に警察は全てのデータにアクセスできるので、犯罪検挙率は100%だが、社会の安全と引き換えに個人のプライバシーは全くなくなっている。その様子はあたかも、攻殻機動隊が描く電脳世界のようである。
そんな未来社会に生きる刑事サル(クライヴ・オーウェン)はあるとき、街中で個人データが全く見られない若い女(アマンダ・サイフリッド)とすれ違う。
不審に思ったサルは、その女の姿を目で追うのだが、すぐに見失ってしまう。しかし、その女との出会いこそが、サルのみならず警察全体を震撼させる謎のハッカーによる連続殺人事件へ繋がる端緒なのだった。
全ての人間のアイデンティティが記録され、一切のプライバシーの秘匿が許されない社会に反発して、匿名の存在(ANONYMOUS=ANON)として生きることを願う1人の美女をアマンダ・サイフリッド、彼女を連続殺人の犯人として追う刑事サルをクライヴ・オーウェンが好演。
プライバシーを制限しても安全を欲するか?
社会の安定か、個人のプライバシーか?
究極の問い、またはその問いへの回答を描く映画作品は多い。完全なる監視社会はディストピアとして描かれることが多いし、プライバシーを取り戻す行為をある種のルネサンス(人間復興)として描く作品も多い。
本作も、そうした流れの一つに思う。
プライバシーを制限することによって犯罪の発生を未然に抑え、それでも起こってしまう犯罪は確実に解決することができるようになった近未来は、安全性や安定性で見れば、正しい社会体制であると感じられるかもしれない。実際、現在の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題への対策において、ロックダウンのような強制措置を禁止している我が国においても、それを生温く感じて、施政者や司法に強権を与えることを望む者が多くなっていると聞く。
ロックダウンなどの強権発動が可能な政府を持つ諸外国には、そうした政権によってプライバシーが制限されることへの反発が生まれているというのに、である。
社会の安定か、それとも個人のプライバシー(個人の自由)か?
そんな根源的な問いかけをする作品が多く、そのほとんどが個人のプライバシーを優先すべしという主張が多い。このことをどう考えるのか?自粛警察という言葉さえ生まれてしまう現状と比べて、本作は、自分ならこの問いかけにどう答えるかを、深く考える機会となる映画であると思う。
小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。
ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。