16世紀の英国における、イングランドとスコットランドの地政的政争、および非カトリック(プロテスタントと敢えて言わない)とカトリックの宗教的政争を、男尊女卑の気風が残る時代にあって国家に君臨した2人の女王=エリザベス(イングランド)とメアリー(スコットランド)の存在を通して描いた中世ヨーロッパの歴史作品。

中世のイギリスの歴史を知らないと分かりづらい対立図

イングランド王国とスコットランド王国の勢力争いを、共に当時の両国のリーダーとして君臨した2人の女王の生き方を通して描いたのがこの作品だ。

本作は、メアリーとエリザベスは互いを相容れない存在とは捉えていないが、周囲の男たちの思惑が 2人を激しい政治的対立の矢面に立たせていく様を描いている。

若く、その美貌と勝ち気な性格で知られるスコットランド女王メアリーをシアーシャ・ローナンが演じ、天然痘を患ったせいもあって髪が抜け肌に痕が残ってしまった容貌に終生のコンプレックスを抱えたとされるイングランド女王のエリザベスをマーゴット・ロビーが演じている。

英国(イギリス)とは、イングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランド(現在では北アイルランドのみ)より構成される連合王国(英国の正式国号は“グレートブリテン及び北アイルランド連合王国”)だが、本作ではイングランドとスコットランドが合併して、グレートブリテン王国が誕生する前夜の昏い蠢動を描いた作品だ。(注)

(注)近代〜現代の英国の内政的問題を描いた作品の多くは、北アイルランド問題=北アイルランドの領有権を巡る英国とアイルランドの蹉跌、あるいは英国からの独立を目指す北アイルランド内での地域紛争(1988年のベルファスト合意によって一旦の収束がもたされたとされている)をテーマにしている。

メアリー自身はその野心と才気の高さが祟って周囲に多くの敵をつくり、最後には断首の憂き目に遭うことになるのだが、エリザベスの死後 イングランドとスコットランドは同じ国王を戴くことをきっかけに、合併(=グレートブリテン王国)へと向かう。実は、この王こそメアリーの実子(ジェームズ1世)なのである。
つまり、母親は政争の果てに粛清されるが、その子はスコットランドとイングランドの2つの国を同時に治める存在となるわけだ。

このように、合併への道へと両国が歩み始めるその寸前の激動の時期に、メアリーとエリザベスという2人の女王の対立があり、本作は時代が大きく動く前の嵐の時期をテーマとしているのである。

美貌と攻撃的なスタンスを全面に出すスコットランド女王メアリー

メアリーは高い血筋と華やかな美貌を持ち、フランス国王に嫁ぎながらも夫と死別。その後スコットランドに戻り、王位に就くが、同時にイングランドの王位継承権を主張する。
ただ、彼女は敬虔なカトリックであり、当時イングランドとスコットランド両国ではローマ教皇(カトリックの首長)の影響からの独立を目指す宗派が勢力をもっていたため、メアリーを排除しようと考える者は多かった。

本作におけるメアリーは若く才気走っており、自他共に認める優れた容姿もあって、自らの成功と栄誉を信じて疑うことがない。
しかしながら、時代はまだ16世紀であり、女性に対する敬意は 男女同権の下にあるのではなく、あくまで強者が弱者に対する庇護者として振る舞うものであり、たとえ女王であってもメアリーの絶対君主ぶりを心から受け入れる者は少なかった。
その結果、メアリーはカトリックであることを理由に宗教的な誹りを受けるし、その美しさゆえに売女呼ばわりされる。そして彼女を征服することを夢見る男たちによって、様々な理不尽な攻撃を受けて王権を失っていくのである。

男を受け入れないことで王権を守ろうと考えたイングランド女王エリザベス

自分よりも高貴な血筋を持ち、さらに自分よりも若く美しいメアリーの存在に、強い劣等感を味わされるのがイングランド女王エリザベスだ。
彼女は結婚によって 男(夫とその後見者たち)が王権に影響力をもったり野心を抱くようになることを恐れて、一生未婚を通した。メアリーへの対抗意識からか、天然痘の影響で抜けた髪にはカツラをあてがい、痘痕を隠すために白塗りや濃い化粧で素顔を隠すなど、自身を飾ることに執心したものの、基本的には強い女王として国家に君臨することにこだわり続けた。
その結果、政敵であるメアリーを蹴落とし、イングランド女王としての立場を守ることに成功するのだが、前述のように、エリザベスからすればメアリーの命を奪うことは本意ではなかった。

彼女からすれば、メアリーは美しい女であったばかりに男たちの敵意を買い、自身の美しさを活用しようとしたばかりにつけこませる隙を作った。エリザベスはメアリーの若さや美しさを羨んだが、同時に反面教師として生かすことで自身の立場を守り抜いたと言える。

日本人にはわかりづらいが、時代を変えるきっかけとなった悲劇の女性の生きざまは、知っておいていい

本作は、中世英国を舞台にした歴史映画であり、大抵の日本人にとっては馴染みの薄い時代背景のため、ピンとくる話ではないかもしれない。だから面白い映画とは言い難いし、少なくとも日本では万人受けする作品では、ないだろうと思う。
タイトルではエリザベス対メアリーのような、“女の戦い”を描いた作品のようだが、実のところメアリーの伝記的な映画だ。

悲劇の女王メアリー・スチュアートについては世界史の教科書で学ぶことはあるだろうと思うが、多くは宗教的対立の結果 処刑されたという文脈で、サクッと流れていくだけだろう。
だが、本作をみる限り、彼女がカトリックであったことは 彼女の足を引っ張ろうとする勢力が口実にしただけであり、メアリーが野心と能力を併せ持つ存在(そして女性)であったがゆえに追い落とされたようにみえる。カトリックであることを理由に王位に相応しくない(ローマ教会から指図されるのではないか?と思われる)言いがかりをつけられ、並外れて美しく男の欲望を掻き立てることから 男好き(売女)であるかのような非難を受けた。そしてその結果 死刑に処せられる羽目になった。
時代に嫌われた才女の悲劇、というのが本作の本来のテーマである、と僕は思う。

画像: 『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』16世紀英国に実在した2人の女王の生き方の相違

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。

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