長年勤めてきたテレビ局を辞め、自由な生活を求めてほぼ廃墟化したカフェを借りて住み着いた松ちゃんを慕って集まる若者たちが揃って溜息をつく。おいおい、こっちの方がどうしたらいいんだ?て愚痴りてぇよ。
Mr.Bike BGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第64話「襟立てて溜息を」より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集 by 楠雅彦@dino.network編集部『雨はこれから』

若者のぼやきに苛立つ松ちゃん

女もさ、とリナが言う。「30過ぎるとアセるのよ!ぜーんぜん彼氏ができないのよォ」

そうかと思うと、まだ20歳を超えたばかりですねかじり(大学生)のヒトシは「俺ってどうしたらいいと思う⁉︎」とぼやいてみせる。

おいおい、と私は心の中でツッコミを入れる。俺ってどうしたらいいと思う?だって??
聞きたいのはこっちの方なんだよ、まったく。

画像1: 若者のぼやきに苛立つ松ちゃん
画像2: 若者のぼやきに苛立つ松ちゃん

どうしたらいいと思う?と聞きたいのはこっちの方なのさ

いい若い者のぼやきはたいてい色恋関連だ。
私のような年齢になると、恋愛なんかでどうしたらいいか分からなくなるということは滅多にない。それよりもっと深くて濃い闇が心の中に染み込むように忍び込んで、ずっとずっと不安に苛まれるものなのだ。

俺ってどうしたらいいと思う⁉︎
そんなふうに他人に訊けたらどんなに楽だろう。大人はそんなふうには他人を頼りにはできないものだ。
愚痴ったって嘆いたってどうにもならない。物事はたいてい、なるようにしかならないものなのだ。

とはいえ、若者の嘆きは確実に私にも伝染してしまった。常日頃から心の奥底に巣食う不安の種を刺激された私は、ひとりバイクに跨ると街に出た。

画像1: どうしたらいいと思う?と聞きたいのはこっちの方なのさ
画像2: どうしたらいいと思う?と聞きたいのはこっちの方なのさ

若い頃ならアテもなくバイクを飛ばしていれば心は晴れたものだが、もうだいぶいい年齢になった今では、どうにもそんな無邪気でもいられない。着いた先は、(行きつけのカフェの)炉煎のマスターの孫娘 ソノミが歌っているバーラウンジだった。

老いは心から先にくるものか?

オートバイできた私は当然酒は飲めない。
コーラを頼んだ私はアルコールに逃げることもできずに、ステージに立つソノミをぼんやり見つめながら座っていた。

色恋にぼやく若者から逃れてきたつもりが、結局 そんな不安の解消には自分もまた若い女が放つ輝きを必要とするのか?そもそも私はソノミに惹かれているのか?
そんなことも分からずにいたが、それでも私はそこに座っていた。老いは身体より心から先にくるものか?私はソノミの歌声を聴きながらただそんなことをぼんやり考えていた。

画像1: 老いは心から先にくるものか?

そのとき、不意に肩を叩かれて私は我に返った。「松ちゃんじゃないの!」
こんなところでなにしてんの!と声をかけてきたのは音楽プロデューサーのサクラバだ。
テレビ局時代の私を知る男だが、ここ数年はとんとご無沙汰だった。

画像2: 老いは心から先にくるものか?
画像3: 老いは心から先にくるものか?

久しぶりに会った昔馴染みに動揺する松ちゃん

「なんだフケたか?」サクラバは私の席の空いた椅子に腰掛けながら言った。「枯れるのはまだ早いんじゃないのか」
人の心の中を読んだようなそんな不躾な言葉に、私は少しムッとしながら「こんな暗がりでわかるのか?」と答えた。

アンタみたいにいつまでも油ぎってられないよ、と私は不機嫌な顔で言ったが、サクラバは意にも介さない様子だった。

実際、もし彼の目に 私が油が抜けたように見えているとしたら、そいつは激しく問題だ。それは私の心が老いている証拠だからだが・・・そのとき、歌い終えてステージから降りたソノミが私たちを見つけて近づいてきた。

画像1: 久しぶりに会った昔馴染みに動揺する松ちゃん
画像2: 久しぶりに会った昔馴染みに動揺する松ちゃん
画像3: 久しぶりに会った昔馴染みに動揺する松ちゃん
画像: 老いは身体より心から?
〜『雨はこれから』第64話「襟立てて溜息を」より

楠 雅彦|Masahiko Kusunoki

車と女性と映画が好きなフリーランサー。

Machu Picchu(マチュピチュ)に行くのが最近の夢。

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