英国政府お抱えの傭兵部隊ブラックスワンは、政治的判断から無常にも切り捨てられ抹殺されかけるが、生き残りを懸けてロンドン-パリを結ぶ高速列車をハイジャックする。英国政府は真相の発覚を恐れて、ブラックスワンのリーダー グレースの暗殺を特殊部隊SASに命じるが?

高速列車版ダイ・ハード

映画の基本プロットとしては、列車版ダイ・ハード。たまたま恋人との旅行に乗り合わせたSAS隊員トーマス・バッキンガムが、ひとりレジスタンスを行う、というもの。
ここに味付けされているのが、サイコパス(100人に1人くらいの割合で存在するとされる精神病質者で、他社への非寛容やモラルの欠如などの、自己中心的特徴がある)という設定で、本作では殺人を犯すことに躊躇いがないとか、人を撃った直後で平然と恋人との時間を楽しめるなどの行為をその症状として表現している。

そしてヒーローとしてハイジャックに立ち向かうトーマスと、ハイジャックを指揮するグレースはともにサイコパスである、というのが本作の “列車版ダイ・ハード”に加えられた強度のスパイスなのだが、正直言ってピンとこない、というか、大抵のアクション映画の登場人物はそうした気質を有しているから(人を撃ったあとで平然と軽口を叩いたり、敵を射殺するのに躊躇いを持つ者はほぼいないから)いまさらそれはサイコパスなんですよ、と言われてもああそうですか、と言うほかないのだ。
それに、ほとんどの軍隊経験者は気分の切り替えを巧みにこなさなければ生きていけないとも思うから、至極当たり前の気質や技術であると感じるのである。

逆に言うと、本作のストーリーや、アクションはなかなかのもので、余計な設定はない方が素直に楽しめる。

グレース役のルビー・ローズは凄腕の傭兵のリーダーの凄みを巧みに演じているし、トーマスを演じるサム・ヒューアンのアクションもいい。

トーマスの親友のSAS隊員に「アンブレラ・アカデミー」の主人公の1人を演じるトム・ホッパー、トーマスの恋人役に「アントマン&ワスプ」でヴィランを演じたハナ・ジョン=カーメン、グレースの父親役に英国の名優トム・ウィルキンソンが配されるなど、かなり力が入った作品であり、繰り返すが余計な味付けは不要、クールなアクション映画、というストレートな勝負をしたほうが良かったのでは?と思う一本である。

悪役を演じるルビー・ローズに注目

本作では、ちょいちょいサイコパスがどうのこうの的なシーンが挟まれるが、上述のようにこれらは本当に邪魔。ない方がいい。

その上で話を進めるが、ヴィラン役のグレースを演じるルビー・ローズは、サディスティックな表情がよくハマっていてなかなかに良い。

彼女は「ジョン・ウイック:チャプター2」では、聾唖の女殺し屋を演じているが、手話で脅し文句を決める姿が実にクールで印象的だった。本作における“サイコパス”の傭兵役も綺麗にハマっており、美しさと冷酷さを兼ね備える役どころを演じさせたなら、なかなか他に比べられる俳優はいないのではないか?というレベルまで完成していると思う。

総体的にみて、本作はアクション映画としては上等だ。余計な味付けに惑わされずまた、多少こじつけているかのような設定も無視して、単純にキレのいいエンターテインメントを楽しもうという気楽な気分で観てもらえれば、コストパフォーマンスの良い作品だと言えると思う。

ただ、この作品の原題「SAS: Rise of the Black Swan」を見ると、シリーズ化を狙っていたのかな?と思わないでもないのだが余計な設定が仇になってしまっているのでは?と思わないでもない。もうルビーにも頼れないし・・・。

画像: 『SAS: 反逆のブラックスワン 』切り替え上手のサイコパスが善悪に分かれて激突

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。

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